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起業物語[aile vol.118]

ないものは創ればいい、おかしいと思うことは変えればいい
~自立と共生のチカラを育む学校づくりから新しい社会を創る

青野桐子(あおの きりこ)さん オルタナティブ・スクールあいち惟の森校長
大分県出身。自然豊かな環境の中で5人兄弟の長女として育つ。大学進学のため愛知県へ。社会福祉を学んだ後、大学職員となり、地域福祉の担い手育成やまちづくりに携わる。出産を機に退職、自分の子どもと一緒にNPO法人こどもNPOの子育て広場に通ううちにいつしか事務局を手伝うようになり、のちに事務局長になる。2014年、NPO法人こどもNPOと、NPO法人NIED・国際理解教育センターがそれまでの経験と思いを重ね合わせて新しい学校をつくるためのプロジェクトを開始、2018年NPO法人あいち惟の森設立、校長に就任。

取材に伺ったのは2022年7月の月曜日午後。オルタナティブ・スクールあいち惟の森(ゆいのもり)では、子どもたちが思い思いの様子で過ごしていた。本を読む子、タブレットで何かを調べている子、友だちと何かを相談している子、一心に漢字の書き取りをしている子…。惟の森のカリキュラムの一つ、自由活動の一コマだ。

オルタナティブとは「もう一つの」という意味。オルタナティブ・スクールは既存の学校教育にとらわれない学びの場の総称だ。いわゆる学校教育法第一条に定められた学校とは異なり、海外の教育哲学者の思想を基に運営される学校や、新たな視点を加えた独自のカリキュラムを実践している学校などがある。

あいち惟の森は、NPO法人こどもNPOとNPO法人NIED・国際理解教育センターの協働プロジェクトとして2014年に検討プロジェクトが発足。2018年に、新たにNPO法人あいち惟の森として独立をする形となった。現在小学校部に21名、中学校部に5名の生徒が通っている。決して狭くはない校舎だが、子どもたちのエネルギー溢れる佇まいに触れるとなんだか狭く感じてしまうのが不思議だ。

この学校の校長を務めるのが青野桐子さん。取材の合間合間にも子どもたちから親しみを込めて「きりこ~」と声がかかる。「ここではわたしたちは“先生”ではなく、子どもたちと一緒に社会を創っていく仲間なんです」。設立から4年目、決して運営は楽ではないという。けれど、この場所には、生きるエネルギー、未来へのエネルギーが満ちている。
青野さんのここまでの歩みを伺うと、その理由が見えてきた。

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ないものは創ればいいという父からの教え

青野さんは大分県出身。海、川、山、すべてが近くにあるという自然豊かな環境の中で、5人兄弟の長女として育った。「とはいえ、3月生まれだし、小柄だし、のんびりした子どもでしたね」と笑う。父親は、様々な事業を次々と手掛ける実業家。「ないものは創ればいい、おかしいと思うことは変えればいい、といつも言っているような父親でした。いろいろと大変なことはあったけれど、お客さんに対してはどんなことがあっても誠意をもってやり遂げる姿は子どもながらにすごいな、と思っていました」。

子どもの頃の青野さんは戦時中看護の仕事をしていたという祖母と過ごすことも多く、福祉に興味を持ち、日本福祉大学に進学。愛知県で大学生活を送った。ただ、介護施設や児童養護施設での実習を経験する中、自分がやりたいのは施設の中での仕事ではないのかもしれない、と思うようになったという。
「入所されている方にとっても、そこで働く人にとっても、環境がまだまだ整っていない時代で。もっと一人ひとりに丁寧に関わりたいと思ったんです。父の影響か、どうすればこの現状を変えられるだろうかとすぐに考えてしまう癖があるんですが(笑)、当時の自分にはそんな力量はないし、福祉の仕事を志しながらも一歩を踏み出すことができなかった」。

就職先が決まらないまま、大学4年間が過ぎようとし、留年も覚悟していた頃、ある大学職員から声がかかったという。「大学で職員を募集している、チャレンジしてみたら?って。それで慌てて採用試験を受けて、母校の職員となりました」。
青野さんは事業部という地域の人材育成や地域連携に携わる部署に配属された。上司にも恵まれ、いきいきと働くようになる。地域でのヘルパー養成講座の運営や、まちづくりのワークショップ、機関紙づくりなどの仕事を通じて企画力、運営力、調整力を磨いていく。
ただ、10年ほど勤めたところで、出産のため退職。「かなりハードで夜も遅い仕事だったんです。子育てとの両立は難しいかなと」。

これは私達だけの問題じゃない

「長男の子育てはなかなかハードでした」と青野さんは振り返る。長男はエネルギーが溢れてしまうタイプで、公園で友だちと遊ぶたびに泣かせてしまう。他の保護者からもう公園に来ないでほしいと言われたこともある。どうしたらいいかと考えていたときに出会ったのが、NPO法人こどもNPOが運営する子育て広場ピンポンハウスだった。
「初めて行ったときに、長男の事をすごく子どもらしい子だね!と言ってもらって、あぁ、ここにはいていいんだとほっとしたことを覚えています」。

しかし、通ううちに少しずつ新たな思いも芽生えていった。「ピンポンハウスが開いている日はそこに行けばいいけれど、そうでない日はやっぱり息子と二人きりで過ごすわけです。私たち親子の問題はこの中に留まらない、なにかできないだろうかと考えるようになりました」。
そんな青野さんの様子に気づいたのかどうか、ピンポンハウスのスタッフから「なにか新しいことを一緒にやらない?」と声がかかり、青野さんは外遊びの企画を担うようになる。
「私の問題、我が家の問題は自分たちだけの問題じゃない、ということはずっと思っていました。絶対に他にも同じ想いをしている人がいるはず、1人じゃないと。そう思っていろいろやっていると、だんだん仲間が増えていって」。

いつしか、事務局としてもこどもNPOに関わるようになり、週2、週3日、週4日と勤務日も増えていったという。「私たちが直面しているのは社会の課題なんだ、社会が変わらないと私たちの問題は解決しないんだという感覚はぼんやりと持っていました。そうすると何か具体的な解決策を考えたくなってしまうんですよね(笑)」。
こどもNPOも児童館などの指定管理事業を受託し、法人としての規模も少しずつ大きくなっていた時期。
その中で、現場を支える事務局の体制づくりに取り組む日々が続き、また、NPO法人子育て支援のNPOまめっこや起業支援ネットとのコンソーシアムで、名古屋市子ども・子育て支援センターの事業を受託するという新たなチャレンジも行った。

学びと検討を重ね、そして開校へ

一方で、現在の教育のしくみ、人が学び社会に関わっていくというプロセスにもずっと関心を寄せていた。
「うちは3人の息子がいるんですが、結局全員小学校にいかなかった時期があるんです。わたしは、NPOの仕事に子どもを連れてきていたのでよかったんですが、やっぱりこれもうちだけの問題ではないのでは…?と思うようになったんです」。

2011年の東日本大震災での原発事故も青野さんにとって大きな衝撃だったという。
「それまでの自分の無知を突き付けられた。社会を変えたいと言いながら、自分も今の社会のあり方に加担していた一人だったんだと」。

社会に出る前の学びの場のあり方、そこで人として学び育っていくことの重要性を改めて感じ、国際理解教育の分野で活躍していたNPO法人NIED・国際理解教育センターに相談。2014年に共同プロジェクトとして「理想の学校プロジェクト」を立ち上げた。
オルタナティブ教育についての学習会やワークショップを重ねてきたが、それでも当時はまだ自分たちで学校をつくるという確固たる意志があったわけではなかったという。ただ、ワークショップで検討してきた構想を発表した折、関西ですでに学校を運営しているNPOの方に「ここまで出来ているのになぜやらないのか」と問いかけられはっとしたという。

当時青野さんは大きな病気・手術・闘病を経て、少しずつ仕事に復帰したばかり。それでも闘病期間中多くの人に支えられたことを痛感し、その周りの気持ちに応えたいという想いにもなっていた。こどもNPOでのトライアル期間を経て2018年にNPO法人あいち惟の森を設立。2019年に正式な開校となった。

新たに見えてきた課題、そして続く挑戦

(図1)

あいち惟の森では、「子どもには自ら育つ力がある」「子どもは一人の市民である」と考え、育みたい価値観と力を明確に定義している。(図1)
「もちろんこれは目指す姿であって、今それがすべてできているわけではないんです。でも、そういう意味では理念や価値観がかなりはっきりしているので、誰にでも合うとは限らない。入学を検討してくださるお子さんも親御さんも、いろいろな場所を見た上で、自分自身にあったところを選んでほしいと願っています」。
入学相談に来られた親御さんとの対話が、生活や人生の相談になることもしばしば。
「その度に、既存の学校に行けない、あるいは行かないという選択をした親子を取り巻く環境の厳しさを感じます。ここに来るまでにどんな想いをしてこられたか、その深刻さに言葉を失うことも。お役に立ちたい気持ちはあるものの、惟の森のコンセプトがそのお子さんの現状や目指す方向性に合致しないこともある。学齢期の子どもたちをサポートする資源はもっと必要だし、連携も深めていかなければならないと思っています」。

「ただ、教育って本当に息の長いプロジェクト。10年単位ですよね。ここで学んだ一人ひとりが、社会の中で小さくても自分なりのコミュニティをつくっていける人になっていく日がくることを信じて、今日もドタバタと過ごしています(笑)」。

ただ生きるということがこんなにも難しくなっている時代。それでも、一人ひとりが持っている力を信じること、そしてその力を自分のためだけではなく、誰かのためや未来のために使うこと。未来を拓くヒントは、意外とシンプルなのかもしれない。

ないものは創ればいい、おかしいと思ったことは変えればいい。学校が開校したことでさえ、通過点の一つに過ぎないのかもしれない。青野さんと仲間たちの挑戦は続く。

■ 取材/久野美奈子(起業支援ネット代表)・石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■ 文/久野美奈子
■ 写真/梶景子(となりのデザイン)
会報誌aile118号(2022年9月号)掲載

オルタナティブ・スクールあいち惟の森(認定NPO法人あいち惟の森)
■事業内容
オルタナティブ・スクールの運営(小学部・中学部)
基礎学習、自由活動、テーマ・スキル学習、分野別学習、プロジェクトの主要5カリキュラムとクラスタイム、スクールワーク、全校ミーティングなど民主的な学校運営のための時間がある
■理念
1.自分らしく十分に生きる学校
2.学ぶことの本質を味わう学校
3.よりよい未来をともに創る学校
■連絡先
〒458-0818 名古屋市緑区鳴海町大清水69-1116
電話・FAX 052-848-7490 メール info-yuinomori@love-hug.net
https://www.yuinomori.org/

 

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