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起業物語[aile vol.113]

幸せに子育てができる世界をたくさんの人とともに作っていく

中井恵美 (なかい めぐみ)さん 特定非営利活動法人 子育て支援のNPO まめっこ 理事長
塾講師として小学校・幼稚園受験をする子どもたち(2歳~3年生)とその親と接するうち、乳幼児期の子を持つ親にアプローチする子育て支援の必要性を感じる。2014年に「特定非営利活動法人 子育て支援のNPOまめっこ」に事務局長として入職。2018年5月より理事長を務める。

なぜ、世界から戦争がなくならないのだろう?――「子育て支援のNPOまめっこ」理事長の中井恵美(なかいめぐみ)さんが、乳幼児期の親子を応援する仕事を志したルーツは、子どもの頃に抱いた疑問にあった。

「小学生の時、テレビで湾岸戦争の映像を見て、なぜ戦争が起こるのだろう?と思って。学校でもいじめがあって、なぜ人は争うんだろう、人を傷つけなければならないのだろう、どうしたらみんなが平和に暮らすことができるのだろう、とずっと考えていました」。

中学、高校と進む中で考えた末に当時の中井さんが出した結論は「教育が大事」。教育に携わる仕事、学校の先生になりたいと思うようになった。

「でも、私は19歳の時に妊娠が分かり、短大を中退して結婚・出産したので、いったん先生になる夢は閉ざされました。あきらめられなくて、子育てしながらでももう一度学んで教員免許を取ろうと考えていました。

とはいえ、毎日生活していくだけでも大変で、なかなか大学に入るため勉強をする時間は取れませんでした」。

子どもが小学生になり、少し時間ができた頃、塾の講師の仕事に応募した。入社した会社で担当することになった、幼稚園受験や小学校受験のための幼児教育の仕事が大きな転機となった。

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親の「不安」が与える影響

「2歳から子どもを塾に通わせられる親御さんは、医師や弁護士、国家公務員や会社を経営されている方がほとんど。恵まれた環境だなあって思いますよね。反面、大きな悩みを抱えている方もいらっしゃいました」。

親族から子どもの受験に対して強いプレッシャーを受け、「失敗したら自分のせいだと責められる」と常に切羽詰まった表情のお母さんがいた。一方では「受かっても受からなくても、いい経験になれば」と学ぶことをのびのびと楽しむ家族もあった。前者のほうがずっと時間をかけて受験対策をしているはずなのに、良い結果が出るのはリラックスした雰囲気のある家庭の子だった。

「乳幼児期の親が子どもに与える影響の大きさを目の当たりにしました。親がどんな環境に置かれていて、どんな思いでいるかが、子どもの成長やふるまいに大きく関わっているのだと」。

中井さん自身が出産したばかりの頃の思い出も重なった。初めての夫の実家での暮らしや、慣れない土地での団地暮らしに戸惑った。夫の帰りも遅く孤独な日々。2歳と0歳の二人の娘が泣くたび下の階に住む人に「うるさい」と叱られる。

「毎日怒られて、どんどん追い詰められてしまって。児童虐待のニュースを見るたび「これは明日の私だ」と脅えました。私の様子を見て、娘も不安そうにしていたのを覚えています」。

優しく声をかけてくれる人たちもいた。保育園の「未就園児のお遊び会」で知り合った「ママ友」たちは、階下の人を気にする中井さんと子どもたちを家に呼んで遊ばせてくれた。中には夕ご飯をごちそうしてお風呂に入れてくれる人までいた。

「いろんな人に支えられました。特にお風呂まで入れてくれた年上の友人が転勤で引越すことになった時にはどうしても恩返しがしたくて、何かさせてと頼んだんです。

そうしたら「何も返さなくていい、いつかめぐちゃんも子どもの手が離れたとき、同じように困っている人を助けてあげて」と言われました。彼女も昔、別の人に良くしてもらったときに同じ事を言われたそうです。「恩送りができてうれしかった。ここで恩返しをされたらそれで終わりだけど、めぐちゃんが誰かに恩を送ってくれたらつながっていくから」、と」。

まめっことの「運命の出会い」

乳幼児期の子を持つ親の、子育ての最初のつまずきや不安を和らげる仕事がしたい。中井さんは学習塾を辞める決意をする。しかし、どこに行けばそんな仕事ができるのかは見当もつかなかった。「おもちゃ図書館」でボランティアをしたり、学生時代から興味のあったファシリテーションを学び直したりしながら、親子とつながれる場所を探した。ある時、寺子屋塾の井上淳之典さんの講座で知り合った人から「まめっこ」を紹介された。

「当時からまめっこにインターンの学生さんを紹介してくれている、NPO法人アスクネットの職員だったOさんです。

「子育て支援」も「NPO」も初めて聞く言葉でした。でも、理事長だった丸山政子さんにお会いしたらすぐに、運命だ!と感じて。乳幼児期の親子関係がその後の育ちにずっと影響する、という問題意識がぴったり同じでした。

何よりまめっこではまさに私がやりたかったことをやっている。自分が多くの人から受けてきた「恩」を、まめっこでなら返せるかもしれない。ここでやるしかないと思いました。

丸山さんも「私の言葉が通じる人に出会えた」とおっしゃってくれて。二人でがっちり握手しました」(笑)。

こうして中井さんは2014年に「まめっこ」に事務局長として入職する。

4年目にして理事長に

「まめっこ」も丸山さんの孤独な子育ての経験から生まれた団体だ。1990年代から託児ボランティアを始め、「子育て支援はこれから絶対に必要」と考えた女性たちと2000年に設立。NPOにも子育て支援にも現在ほどの理解がない中、行政や拠点としている柳原通商店街の人たち、企業や研究者と、丸山さんは地域のさまざまな人たちとつながりを作ってきた。「名古屋市地域子育て支援拠点 遊モア」に多くの親子が集い、「758キッズステーション」をはじめ行政からの委託事業を行えるのは、丸山さんが積み重ねてきた信頼によるところが大きい。

そんな丸山さんから、中井さんは4年目にして理事長を引き継ぐことになる。

「早すぎると思いました。事務局長を3年務めて、やっと仕事が分かってきたところです。それにやっぱり「まめっこといえば、丸山さん」でしたから」。

当時は丸山さんが体調を崩すことが何度かあり、健康に不安を抱え始めた時だった。

「丸山さんから「今なら私も3~4年はあなたを支えられる。でも、あと3年後に交代したときに、その後の3年を支えられるかは分からない」と言われました」。

悩んだ末に、中井さんは理事長を引き受ける。未熟な自分だけれど、丸山さんと周りに支えられてやっていこうと決めた。しかし5月の総会で理事長になってすぐに母親の病気が悪化し、看病のため7月から8月はほとんど仕事を休むことになってしまった。

「新事業の受託のタイミングなども重なって大忙しの時期に職場に顔も出せなくなり、こんなことで良いのかと就任早々落ち込みました。

それでも丸山さんに「最初から全部背負わなくていいの!徐々に理事長になっていけばいいんだから!」と力強く言われて。本当に丸山さんとスタッフに助けられてのスタートでした」。

自分なりのまめっこへ

中井さん自身は、理事長になっても何かが変わった実感はなかったという。

「でも、周りの受け止め方は変わりますね。以前はSNSで、子育てについて私の個人的な意見を書くこともよくありました。理事長になってからはスタッフに「中井さんの発言=まめっこの意見」と受け取られますよ、と言われて。

こんな子育てがいいよね、という理想を持つのはいい。けれど、理事長としてそれを言ってしまうと、理想通りにできなかったり、違う意見を持つお母さんたちは「遊モアには行けない」と思ってしまうかもしれない。それは「どんな方でもOK」「誰も排除しない」という、まめっこの考えと合致しますか?と」。

理事長として、間口は広く開けておきたい。一方で、まめっこと自分は同じところばかりでもないはずなのに、という戸惑いもある。

「まめっこと自分が一体、とはなっていないんでしょうね。今でも「他人の服を借りている」感じというか。まだぶかぶかで、少し大きいのかもしれない。(笑)

私は丸山さんが大好きで、丸山さんが苦労して作り上げてくれたまめっこを大切にしていきたい。だからこそ、社会により役立つ法人にしていくために、変えるべきところを変えることも恐れないでいたい。

年数を重ねて、自分らしくまめっこを作っていくことができれば、私の意見も伝えつつ、どんな人でも受け止めるよというメッセージも伝わる言葉を綴れるようになるかもしれないですね」。

未来を作る子育て

「昨年、緊急事態宣言が出たときには三ヶ月間「遊モア」を閉所せざるを得なくなりました。急遽、オンラインで集まれる場を作ったのですが、より心配なのは家にwifiが無かったり、自ら情報収集をするのが難しい家庭です。

リアルな場を持っていることは私たちの強みだと思っていたけれど、逆に「拠点に来てもらう」以外に、まめっこは親子さんとつながる方法を持っていなかったと気づかされました」。

コロナ禍では病院の面会も制限され、孤独感に苛まれながら出産する人が少なくない。産後も感染を避けるため、人との交流を控えがちになる。親子の孤立のリスクが高まっていく。やり場のない不安や怒り、悲しみを抱えて育児をする人たちに、どんなサポートが必要なのか。まめっこには何ができるのか。手探りの状態だ。

でも、中井さんはこうも語る。

「世界の平和に貢献したかったので、子どもの頃は海外に興味を持っていました。海外青年協力隊や、国連など。けれど、塾で出会ったお母さんや、自分の子育ての経験を思うと、平和って“ここ”から始まるんだと実感したんです。一人ひとりが幸せだと思えること。穏やかに子育てができること。それこそが、世界平和につながるのだと」。

誰にも先の見えない状況の中にあっても、まめっこが取り組んでいくことはやはり、一人ひとりの親子に向き合って、一緒に悩みながら育っていくことなのだろう。子育てが一人ではできないように、まめっこもまた、これまでにそうしてきたように、地域のたくさんの人とつながりながら成長していくのだろう。それは、これからの世界を作っていくことでもあるに違いない。まめっこは今年度も新しい事業に挑戦し、認定NPO法人となるべく申請も予定している。中井さんはホームページでこう書いている。

『このような社会で、私たちはどのようにして子どもを育てていけば良いのでしょうか。まだ誰も答えを見つけていません。
でも、だからこそまめっこは、今まで以上に多様な人々とつながり、知恵を出し合って、1組でも多くの親子を笑顔にできるよう活動を広げていきたいと思っています。
どうぞまめっこに力を貸してください。仲間になって、私たちと共に日本の未来を創ってください。』

■取材/久野美奈子(起業支援ネット代表)・石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■文/石黒好美
■ 写真/梶景子(となりのデザイン)
会報誌aile113号(2021年6月号)掲載

特定非営利活動法人 子育て支援のNPO まめっこ
■事業概要
・ 子育て支援のための親子の広場、親子教室及び講座の企画、運営事業
・ 子育て期の親を支援するための託児事業
・ 子どもの健全育成を図り、親の育児不安を解消するための支援事業
・ 子育て環境を整備し、人にやさしい街づくり推進を図る事業
■理念:
親も子も主人公
■連絡先:
〒462-0845 愛知県名古屋市北区柳原4-2-3
TEL・FAX (052)915-5550
https://mamekko.org/

 

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