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起業物語 [aile vol.104]

不器用でもまっすぐに

市野恵(いちのめぐみ)さん 特定非営利活動法人地域福祉サポートちた 代表理事
三重県出身。学生時代はバレーボールに打ち込み、高校時代には三重県選抜メンバーとしても活躍。その後実業団でプレーするも、怪我のため競技生活を終える。
2002年愛知県知多市に転居。専業主婦として子育てをする中、友人からの声かけによりNPO法人地域福祉サポートちたの活動にボランティアとして関わるようになる。その後スタッフになり2010年から事務局長、2017年代表理事に就任。

愛知県知多半島。五市五町から構成され、名古屋にも近い北部地域と、自然に恵まれた南部地域からなるこの地域では、1990年代から市民による相互扶助による在宅福祉活動が活発化していった。ごく普通に地域で暮らす人同士が助け合い、誰もが自分の望む地域で最期まで自分らしく生きることを支える取り組みだ。

世はいわゆる「バブル崩壊」の時代。生活の手触りとは無縁のところで上がりきった株価や地価が暴落し、倒産するはずがないと思われていた企業も倒れていく中で、本当の豊かさとはなにか、お金だけではない価値とはなにかという問いが社会に生まれつつあった。知多半島の各市町で同時多発的に、地域での暮らしを自分たちの力で支えようとする取り組みを行う団体が生まれたことは決して偶然ではなく、時代の要請によるものでもあったのだろう。

その後、こうした団体同士の交流やネットワークづくりが始まり、そのネットワーク自体を継続的、自立的なものにしていこうという機運の中で誕生したのが”NPO法人地域福祉サポートちた”だ。1998年、前身となる任意団体「ちた在宅ネット」設立、1999年にはNPO法人地域福祉サポートちたとして法人化された。来年には法人設立20周年を迎える「老舗NPO」だ。

この地域福祉サポートちたで4代目の代表理事を務めるのが市野恵さん。創業者ではないが、常に時代の変化の中にあるNPOで代表を務めることは、やはり「起業家」であるということだと思う。「普通の主婦」からNPOの世界へ。市野さんの歩みを伺った。

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軽い気持ちで関わり始めたNPOの世界

市野さんが地域福祉サポートちた(以下、サポートちた)に関わりはじめたのは2002年。すでにサポートちたで働きはじめていた友人からの「手伝って~!」という一本の電話がきっかけだった。知り合いのほとんどいない知多市に転居して半年ほど。子育てしながらできる範囲で、時々ボランティアに出向くことになった。

市野さんは、元バレーボール選手。本人は「背が高いだけだから…」と謙遜するが、学生時代は県の選抜チームで活躍し、その後スカウトを受け、実業団でもプレーしたという経歴はただモノではない。「スポーツって、目的は“勝つこと”で、とてもシンプル。ルールもはっきりしていますよね。本来的にはそういう世界が好きなんです」と笑う。そんな市野さんにとって、NPOの世界は、率直に言って「よくわからないもの」だったという。

それでも、体を動かすことや、みんなで協力してなにかひとつのことをするのは好きだったこともあり、マイペースでボランティアを続けていた。

そんな中、サポートちたの中にコミュニティカフェをつくる動きが持ち上がり、市野さんは「いつの間にか」その担当者になっていた。「起業支援ネットさんのイベントで多治見のママズカフェさんや、ワンデイシェフシステムのこらぼ屋さんのことを知ったのもその頃です」。特に飲食業に興味があったわけでもなかったが、2003年7月に「手作りカフェAda-coda」をオープン。Ada-codaは、現在もワンデイシェフシステムのカフェとして、地域の主婦を中心に、時には高校生シェフも登場するなど、多様な市民の活躍の場となっている。市野さんの役割も、最初は自分自身がコーヒーを入れたり料理をつくったりするところから始まって、だんだんワンデイシェフのみなさんのコーディネートに変化し、2010年に事務局長になったときは、完全に次の担当に業務を移したという。せっかく自分が立ち上げた事業なのに…という気持ちはなかったんですか?と尋ねると「それは全くなかったです(笑)。カフェがきちんと回っていくことが大事。そういう意味では、わたしはあんまり執着心のない人間なのかもしれません」とのこと。「やりたいことをやる」というよりは、「求められていくことに応えていく」のが市野さんのスタイルなのかもしれない。

事務局長、そして代表理事へ

2010年、長くサポートちたを牽引してきた2代目代表の松下典子氏から3代目岡本一美氏への代表交代に伴って、市野さんは事務局長に、そして2017年には代表理事に就任することになった。ゼロから1を創造するリーダーも大変だが、20年に渡って営まれてきた組織を継承することも、また大変なこと。これまでの歴史の中で引き受けた事業を引き継ぎ、想いを込めていかなければいけないことのプレッシャーは、まだまだ大きいという。「率直に、自分ってアホだな、と思いますね(笑)。代表についても、引き受けないという選択肢もあったと思うんです。でも、なぜだか“あ、わたしがやらないといけないのかな”って思っちゃったんですよね」。

「社会の変化とともに、NPOの中間支援組織に求められるものも変化していると感じます。多様な主体が協働していくことの重要性は引き継ぎながら、自分なりのネットワークを活かして、今までになかったもの、新しい地域づくりのプログラムをつくっていくことも必要なのだと痛感しています」。それは、新たに「起こしていく」ということ。「そのことにわくわくしている自分もいます。Ada-codaの立ち上げも楽しかったし、自分自身が考えながら動くことのできる“現場”が好きなんだと思います」。

ボランティアスタッフから職員に、そして事務局長、代表理事と歩んできたからこそ、見えることもある。サポートちたは、もともと地域で暮らす“普通の主婦”たちが活躍してきた団体だ。今も常勤職員は市野さんを含めて2名と少ないものの、パートタイムや非常勤も含めると17名の大所帯。ダブルワークなども含め、多様な働き方で多くの女性たちが活躍している。「でも、みんなとっても優秀なのに、女性たちの多くは“わたしなんて…”って言うんです。それは、働く時間が自由にならないことなども関係していると思います。職員一人一人の生活を支えることができる多様な働き方が可能な職場であることを大切に、みんなの持っている素晴らしい部分をもっともっと活かせるようにしていきたい」。

理不尽なことには抗いながら

納得できないと動けない。それでも一度前に進むと決めたら進む。そんな真っすぐで不器用な生き方は、子どものころから変わらないという。「いや、これでも若干はマシになったと思うんですけど(笑)。子どもの頃は、もっと白黒はっきりさせたい気持ちが強かったですね。学生時代も、好きな先生と嫌いな先生ははっきりしていて、嫌いな先生の授業は抜け出してしまっていましたし(笑)。部活でも、理不尽なことをいう先生には“納得できません!”って噛みついていました」。

「そういえば、子どものころから、社会の問題には関心があったかもしれません。矛盾したことの起こる社会の中でどう生きていくかとか、自分だったらどうするかを考えるのは昔から好きです。差別の問題、障がいの問題、ジェンダーの問題…。子どものころ、近所に障がいのある子が住んでいて、よく遊んでいたんですよね。別に“障がい者”ではなくて近所のまー坊として遊んでいた。そういうことが当たり前の日常の中で、ある日“差別はいけない”っていう授業を受けたんです。それをどう捉えていいのかわからなくて、その時にも、学校の先生に噛みついた記憶があります(笑)。でも、そのときに先生が“知らないということが差別を生み出すことがある”という話をしてくれて、すごく腑に落ちたんです。その中で、学ぶことの重要性を知っていったように思います」。

市野さんは、筋が通っていないこと、理不尽なこと、いい加減なこと、ずるいこと、全力を尽くさないことに人一倍敏感で、相手の言葉やふるまいの中にある「嘘」を自分でも意識せずに見抜いてしまう人だ。そんな市野さんが率いるサポートちたは、来年創立20周年を迎える。これまでの歴史とこれからの未来の間で、市野さんのまっすぐなまなざしと行動が、地域に自由で新しい動きを生み出していくのだろう。その道のりは、まだ始まったばかりだ。

■ 取材・文/久野美奈子(起業支援ネット代表)
■ 写真/河内裕子(写真工房ゆう)
会報誌aile104号(2018年9月号)掲載

特定非営利活動法人地域福祉サポートちた
■事業内容
・人材育成・研修事業(そだちあう)
・情報交流促進事業(であいをつくる)
・啓発・相談事業(きいて、こたえる、つなぐ)
・調査・研究・提言事業(しらべてつたえる)
・市民活動支援事業(おうえんする)
■理念
 あなたの想い わたしの想いをかたちにしたい
 NPO法人地域福祉サポートちたは、誰もが自分が望んでいる地域で、自分らしく生き、心豊かに、幸せに暮らしていけるそんな地域づくりを目指しています
■連絡先
 〒478-0047
 愛知県知多市緑町12-1 知多市市民活動センター1階
 TEL : 0562-33-1631  /  FAX : 0562-33-1743
 http://cfsc.sunnyday.jp/index.php

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