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会報誌「aile」vol.77

会報aile77号(2011年1月号)

人と人とをつなぐフェアトレード~世界をHappyにする消費~



土井 幸子さん
風の交差点風’s(ふ~ず)

1948年生まれ、家族は夫と男三人の子(いずれも社会人で独立)。生涯現役で働くこと、社会に役立つことを望み女性起業セミナーを受講。ウィルあいちオープン時、ショップ公募に「共に生きる」をテーマに応募。1996年5月フェアトレード・ショップ風”s(ふ~ず)をオープン。同時に市民団体GAIAの会(がいあのかい)を立ち上げ、フェアトレードの啓蒙などのイベント・セミナー・映画・コンサートを企画。2009年6月「名古屋をフェアトレード・タウンにしよう会」を立ち上げた。

事業概要


風“s(ふ~ず)
名古屋市東区上竪杉町1
愛知県女性総合センター(ウィルあいち)1F
営業時間:10時~18時(日曜日は17時まで)
休業日:月曜日と祝日は休業(土日と重なる場合は営業)
TEL&FAX:052-962-5557
E-mail:huzu@huzu.jp
URL:http://www.huzu.jp/
名古屋をフェアトレード・タウンにしよう会
URL:http://www.nagoya-fairtrade.net/
■事業理念
途上国の人々の自立をサポートする貿易フェアトレードを通じ、共に生き、生かされていることに気づき、人と人、自然と人がつながっていくことを願っています。
■事業内容
フェアトレード商品の販売

かつてジョンレノンは私たちに「想像してごらん」と語りかけた。

「天国などない、地獄もない、ただみんなが今を生きている」と。

私たちは、自分の住む地域で、あるときは消費者として、またあるときは生産者として暮らしている。

では、想像をしてみてほしい。私たちが買ったものはどこでどのように作られてきたのかを。今この瞬間も、発展途上国と呼ばれる国々では、生きていくために働いている子どもたちがいる。

フェアトレードは、環境に配慮した良質な原料や製品を、経済的な立場の弱い人々から適正な価格で購入することで生活の質を向上・安定させる活動だ。“児童労働”をなくすことも一つの目的としている。

14年間、フェアトレードショップを営んできた土井ゆきこさんは、2009年の6月から名古屋をフェアトレード・タウンにしようと立ち上がった。

新しいステージに挑戦する土井さんは、自分たちにできることからはじめることで、つながる世界があると話す。

名古屋市東区にある愛知県女性総合センター(ウィルあいち)の1階正面玄関入ってすぐの場所に、一際目を引くフェアトレード(公正貿易)ショップがある。

色彩豊かな商品を縦横無尽に陳列させつつ、どの国のどんな人たちによって作られたものか一目で分かる。無機質なセンターの中でおもちゃ箱のように温かくたたずむ空間、それが土井さんの営む「風“s(ふ~ず)」だ。

フェアトレードショップで起業する!

「オープンしてから今まではあっと言う間だった」

と笑う土井さんは地元名古屋市東区に育ち、高校を卒業後、会社勤めを経て、パートナーと出会い結婚を機に家庭にはいり夫の実家の家業を手伝った。

同居を経て核家族となり3人の子育てをしながらも、働くことへの想いは消えず、パートとして営業事務の仕事をしていた。

あるとき、まのあけみさんのギター片手に生活の歌を唄う出前コンサートに参加したときのこと。フィリピンのバナナ農園では、労働者は暑さのため上半身裸で作業をして農薬の被害にあっているという話や、インドネシアのエビの加工に携わっている女性たちは貧困のため廃棄されるエビの頭を持って帰り、食材として利用しているという話を聞いた。

安いバナナやエビの陰にある労働問題を初めて知って、強いショックを受けた土井さんは、それをきっかけに世界へ目を向けるようになり、バナナやエビを買わなくなってしまったという。

そして1993年、生協の会員宛てのお知らせをきっかけに参加した起業セミナーで、起業したばかりの起業支援ネット(当時はワーカーズエクラ)関戸と出会う。

起業セミナーの中で初めてフェアトレードという言葉を知った土井さんは、いつしかフェアトレードのことをたぐりよせていき、1996年3月にはインドへのスタディツアーへ参加した。

ちょうど同時期、5月にオープンするウィルあいちのテナントへ応募をし、多数の競合をくぐり抜け、面接を終えてからツアーに旅立った。帰国後、採用の通知を聞き、準備のため奔走すること2ヶ月。風“sはウィルあいちと共にオープンした。

また、土井さんは平行して「GAIAの会」を立ち上げた。まだ周知されていないフェアトレードの理解につながる、文化・音楽・人権問題を一緒に学び合う場をつくることを目的とした会だ。

そうして今。オープン当時に比べて、卒論を書きたいと訪ねてくる学生やバザーに出したいとかかる声は確かに増えてきた。「でもまだフェアトレードが一般的に広がったという実感はない」。名古屋市内におけるフェアトレードショップ専門店も今は3~4店舗しかないのが現状だという。

フェアトレード・タウンの可能性

風“sオープンから9年が経った2005年、土井さんは一つの運動の存在を知った。「フェアトレード・タウン」だ。これはフェアトレード認定製品の消費運動を積極的に推進することを宣言した地方自治体を指す。

2004年4月にイギリスの小さな街ガースタンから始まった運動で、今では世界20カ国、900以上の地方自治体が宣言をしており、中にはロンドン、ローマ、サンフランシスコなどの大都市も含まれているという。

日本で宣言をしている自治体はまだないが、熊本、札幌などでは宣言を目指して動き出しているそうだ。

フェアトレード・タウンになるためには5つのルールを満たして認定される必要がある。まず、自治体議会がフェアトレードを推進するための議案を可決し、議会、職場、地方庁舎などでフェアトレード認証製品(コーヒー・紅茶等)を使用すること。

次に、様々なフェアトレード認証製品が地域のショップや飲食店で購入できること。これは名古屋市の規模の場合、認証のついた商品2品以上を300店舗以上で販売していることが必要だという。

さらに、地域の企業や商店街、学校といった地域組織へフェアトレード認証製品を浸透させることや、メディアやイベントを通して、理解を広めること。また、フェアトレードの推進委員会を作り、推進活動を継続して行うことが必要だ。

「それを知った時は、名古屋がフェアトレード・タウンになることは、夢物語だと思っていた」

と話す土井さん。しかし、2008年の秋、フェアトレード専門ブランドであるPeopleTreeの展示会に参加したときのこと。

「大げさに考えなくても、フェアトレード製品の小売店が、みんなでフェアトレード・タウンにしようと手を挙げればいい」。

その一言を聞いて、ふと気が付いた。

「フェアトレード・タウンになりたいんですと手を挙げるだけなら、私にもできる!」

視界は一気に開けた。こうして2009年6月、「名古屋をフェアトレード・タウンにしよう会」は設立されたのだった。

フェアトレード・タウンは運動である

これまでもGAIAの会で、フェアトレードにまつわる講演会やイベントを催し、啓蒙活動は行ってきた。

「だけど、行政などに働きかけることはしてこなかった」。

タウンにすると決め、積極的に働きかけるようになった途端、成果は見る見るうちに上がってきた。

「これは一つの運動。動いてみて、フェアトレードを広げるには、行政や企業・学校等とつながらないといけないことに気がついた。一番変わったのは私自身」

と土井さんは語る。

偶然にも、2010年秋に名古屋市はCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)を控えていた。それが追い風となり、あっと言う間に愛知県庁の職員生協でフェアトレードチョコを販売できるようになった。こうした志ある行政職員との出会いにも恵まれ、現在フェアトレードの風は着実に地元行政へ送りこまれつつあるという。

また、学校や生涯学習センターへ話をしに行く機会も激増し、会を立ち上げて1年間で聴講者は3千人を越えた。さらに企業へのアプローチも大手企業のCSR部の方の紹介を得て、徐々に関係づくりを始めている。

フェアトレードを広げるキーワードは“コミュニティ”

「コミュニティの再生こそ、フェアトレードの広がる鍵」。

土井さんはそう話す。

「今の私の考えるフェアトレードは“人と人とのつながり”。今、日本の中でもそれが失われつつあると感じています」。

そのため、コミュニティを再生させる一つの方法として、フェアトレードを活用するという。

「フェアトレードの事例は、児童労働など強いインパクトを持っている。その情報を受け取った人が、自分たちの暮らしを振り返って考えてみることで、日本でも似たようなことが起こっていること、わたしたちも遠い国の人たちも同じ問題に取り組んでいるということに気づくのはないでしょうか。そして自分の足元にある、人と人とのつながりを見直してもらえたら」

と土井さんは考えている。

フェアトレード商品は、飲めばおいしい、着れば心地いい、手作りのものはあったかい。

「だから、暮らしの中の1品だけでもフェアトレード商品を買い続けてみてほしい。そこからはじまる世界がきっとあるから」。

まず、できることから始めればいいのだ。

例えば手に取った商品に対して、なぜこんなに安いのか想像する力を働かせてみる。そこにある現実にきちんと目を向けることができれば、私たちの行動はいくらでも変えていける。

近い将来、名古屋がフェアトレード・タウンになった日には、きっと今よりもっと人と人とがつながり合える温かい地域になっていることだろう。その日が来るまで、土井さんの挑戦は続いていく。

毎日のように消費をする中で、消費者の“権利”を振りかざすことには慣れた私たちも、その “義務”についてどれくらい想いを馳せているだろうか。

土井さんは、谷川俊太郎さんの児童労働をテーマにした「そのこ」という詩を紹介してくださった。みなさんにもぜひ一度読んでいただきたい。

きっと私同様、想像した世界に向けて、一歩先へ踏み出したくなるはずだ。

取材・文/伊東かおり 写真/木村善則

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