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起業物語[aile vol.111]

コツコツと積み重ねるキャリアが自信と信用になる社会へ

野村恵美子(のむらえみこ)さん 株式会社キャリアビジョン 代表取締役
勤怠・労務専門のシステム開発及びクラウドサービスを生業とする『快適クリエイター』を経営理念とし、「快適な時間を創り出す」ことを経営ビジョンとして、働く時間を大切にする勤怠管理システム『勤怠@Web』を開発。大手企業を中心に、管理が行き届かなくなった故にブラックといわれる企業をホワイトへ導く支援策としてのシステム構築が特徴となっている。
その他、タイムレコーダと連動した寄付の仕組みを開発し、水の恵まれない地域への寄付へ繋がる『HAPY:水ポイントシステム』も展開。男女共同参画や女性活躍推進を掲げるコンソーシアムのセミナー講師や、大学の非常勤講師としての活動も行う。

「やりたいこと」「できること」「求められていること」が重なる仕事を選ぶことが、起業する際にも重要と言われている。しかし、この三つをバランスするのはとても難しい。得意だからこそやりたいことは増えるし、求められるほどに多くを抱え込んでしまう。そして、長く続けていくことはもっと大変だ。自分の関心ごとも能力も、時代のニーズも常に移り変わっていくのだから。

企業の勤怠・労務管理システムの開発と運用を手がける株式会社キャリアビジョン。代表の野村恵美子さんのお話はまさに「やりたいこと」「できること」「求められていること」のそれぞれを、少しずつ広げたり、発見したり、重なりを調整しながら、事業と自身を成長させてきた軌跡だ。どんな視点、どんな工夫で、自分と仕事、仕事と社会、そして社会と自分とが、豊かに響き合う関係を作ってこられたのだろうか。

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エンジニアとしてキャリアをスタート

「まだ世の中に出たばかりのコンピュータを、今から勉強すればきっと将来役に立つ」。高校三年生の野村さんはこう考えて、情報処理のコースがある大学に進学した。

「本当は別の分野に進みたかったのですが、受験に失敗してしまって。失意の中『これからどう生きればいいのか』と、当時の私なりに必死に考えたんですね」。

全く縁のなかった世界だが、触れてみるとのめりこんだ。「マイコン」と呼ばれていた小さなコンピュータを買い、本を読み独学でプログラミングを始めた。

「代数のテストの問題を入力すると答えが出てくるプログラムが作れた時は、うれしかったですね。(笑)」
卒業後はシステムエンジニアとして就職。しかし、仕事は想像を絶する激務だった。顧客ごとに違うシステムの環境、言語を覚え、様々に変わる要望に必死に対応する日々。毎月100時間を超える残業は当たり前。気がつけば、50人ほどいた同期は早々に退社してほとんどいなくなっていた。

「当時のIT業界はこれが普通という風潮。エンジニアとしてはとても鍛えられた4年間でしたが、三ヶ月間休み無し、月の残業時間が200時間を超えたとき、心は病み始め、仕事にけりが着いたとき、今しかない!と退職しました」。

周囲に求められ起業を決意

「私は本当は何がしたいんだろう?」野村さんはそんな疑問を胸に、全く別の仕事に挑戦した。最初はケーキ店に飛び込んで雇ってもらい、次は英会話スクールの広報へ。

「当時はどんな仕事でも『頑張ればできる』と思っていたんです。でも、実際にやってみると、自分は実は作業が遅いとか、少人数の職場は自分には合わない。人には向き不向きがある!と当たり前のことが分かりました」。

どの職場でも感じたのは「こうしたら効率が良くなる」「こうすれば売上が上がる」と分析し、業務を改善したくなる自分だった。

「私が得意なのは、属人的でアナログな作業をシステム化すること。そして、たくさんの人とコミュニケーションしながら進める仕事だと気づきました」。

野村さんはもう一度、ソフトウェアを開発する会社に入った。新卒で入った大きな会社とは違い、次の会社は社長との距離も近い中堅企業だった。

「エンジニアとして入社したのですが『自分で売った方が早い』と、営業もするようになりました」。

顧客の要望を聞き改善方法を提案する。汎用性の高い機能はパッケージにして売り出す。自社の会社案内やホームページも率先して作った。

担当していたのは指紋認証機器のソフト開発だ。メーカーがいよいよ一般向けに指紋認証を売り出していこうとする段階だった。試作版を作り、正式な開発に移ろうという時に会社の経営が悪化。プロジェクトの存続が難しくなった。

「メーカーからも機器の販売代理店からも『いま止めてもらっては困る』と。会社でできないのなら、野村さんが引き継いで開発してよ!と独立を勧められたんです」。

そこで野村さんは「資本金の一千万円を集めきる」「事業計画を書いて、三人の人に『いいね』と言われる」ことができたら起業しよう、と決意した。
 

小さな会社の強みを生かす

事業内容を考える中でひらめいたのが、勤怠管理システムの開発だ。当時の勤怠管理システムは大手企業が大金を投じ、独自開発するのが主体だった。もっと安価に、小回りのきくシステムを作れたら。指紋認証の機能とも連携できそうだ。

何よりも、野村さんが勤怠管理システムを作りたいと思った根底には最初に勤めた会社での経験があった。

「100時間以上も残業していたのに、記録がどこにも残っていなかった。それが残念で。
 正社員でもアルバイトでも、毎日の働きがその人の実績になり、キャリアを作っていくはず。コツコツとした日々の積み重ねを形にすることができれば、未来を描く糧にできる、そんな世の中にしたいと思ったんです」。

計画は多くの人に評価された。ともに創業者となった二人の同僚をはじめ、たくさんの人から出資を受け一千万円を集めた。そして2003年に『株式会社キャリアビジョン』を設立した。

起業にあたり決めたことが三つある。一つは、ITだけではなく業務のプロでもあること。業務内容をよく知った上でシステムを作ること。もう一つは受託開発は行わないこと。「顧客と常に関わりを持ち、月額利用料でご利用いただく」継続に価値があるサービス。

三つ目は「顧客のオフィスに駆け付けなければトラブル対応ができないシステムにしない」。キャリアビジョンは当時としては珍しい、インターネット上でシステムが完結する、今で言う「クラウド」型のサービスを展開した。

小さな会社ながらその先進性が認められ、全国に支店を持つ小売業などが次々に顧客となった。事業は順調に伸び、最初は3人だった社員も15人になった。

「人を育てる」ことの難しさ

しかし、六年目あたりから想像していなかった事態が起こり始めた。初めて任せたプロジェクトが炎上し、ともに創業したメンバーの一人が会社を去った。堰を切ったように従業員の退職が続き、1年で5人が辞めた。

「私は仕事を取ってくればみんなが幸せ!と思い込んでいました。創業メンバーとも一緒に頑張ってきたとばかり思っていたのに、同じようには感じていなかったんですね」。

これ以上は当時の自分では難しいと考えた野村さんは、外部の勉強会に参加し経営を学び直すことにした。組織のトップではなく、メンバーの一員として多くの経営者とともに活動する中で、あることに気づいた。

「勉強会の準備をする中、先輩経営者が『ああしなさい、こうしなさい』と助言してくれる。でも、そんなに言われなくてもできるのにな…と。

その時、はっとしました。私も会社では同じことを社員に言っている!と」。

営業も開発も長年やってきた自分だからこそ色々なことが分かる。失敗させまいと、社員が挑戦する前からついアドバイスをしてしまう。

「会社が大きくなると同時に、人も育てなければならない。なのに、私は社員に仕事を任せることができていなかった」。

考えた末に、野村さんは昨年末に「私は来年から会社に来ません」と社員に宣言した。

「何よりも私が、社員の成長を妨げていたと気づいたんです。思い切ってほとんど現場に顔を出さないことにしたら、みんなめざましく成長してくれました」。

セカンドキャリアを創り出す仕組みを

勤怠システムを社員に任せた野村さんは、新たな事業を始める。今年からスタートした「キャリア事業部」だ。培ってきた労務管理のノウハウも生かしながら、会社の組織を強くするコンサルティングを提供する。組織作りの提案や集合研修に加え、社員へ個別のキャリアコンサルティングも行うのが特徴だ。

「誰もが決して否定されることなく、コンサルタントに話を聞いてもらえる。その良さを、働く全ての人に体験してもらいたい。

キャリアビジョンの理念は『快適クリエイター』。システム事業部は『快適な時間を創り出す』。キャリア事業部は『セカンドキャリアを創り出す』を目指します」。

野村さんの考える「セカンドキャリア」は、キャリアコンサルティングに出会うことでその人の「キャリア」が変わること。同じ会社に勤め続けていても、専業主婦だった人が会社勤めを始める場合でも、その人らしい生き方・働き方を見つけて進んでいけるようになる。たくさんの会社に、人がそんな機会と出会える「仕組み」を創ることがキャリア事業部のミッションだ。現状を整理し、叶えたいことを実現するために具体的なアクションを提案することは、システム開発とも似ている。

「私たちが提案するのは『考え方を変えよう』『ポジティブシンキングをしよう』ということではなく、自分自身を知り、自分が大切にしていることに気付き、自己成長が組織の成長に繋がる。そんな当たり前のことです」。

キャリアコンサルティングで社員が自らを知り、目標を見出すこと。そして、社員を支える組織を作ること。無理に変えようとしなくても、きっかけを提供し、環境を整えていくことで、人も組織も自然に変わり、しなやかに成長していくのだろう。

■ 取材・文/石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■ 写真/梶景子(となりのデザイン))
会報誌aile111号(2020年12月号)掲載

株式会社キャリアビジョン
■事業内容
・勤怠・労務管理システムの開発・業務代行及びクラウドサービス
・キャリア形成支援
■理念
 快適クリエイター
 私たちは、ニーズに共感し新しい快適を創り出す快適クリエイターを目指します
 私たちは、快適クリエイターであるために常に何が快適かを問い続けます
 私たちは、快適クリエイターの一歩として身近な大切な人を快適にします
■連絡先
 名古屋市中区錦1-5-11 名古屋伊藤忠ビル5F
 Tel.052-565-1100
 https://www.cvinc.jp/

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