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起業物語 [aile vol.107]

「身の丈」を知り、伸ばしていくコーチに

政岡美里(まさおかみさと)さん チームシリウスジャパン 代表
1978年愛知県生まれ。元プロトライアスリート。筑波大学体育専門学群在学中にトライアスロンを始め、同大学院在学中に出場したワールドカップでは日本代表として8位入賞するなど国内外の大会で活躍。
2009年に元トライアスロン世界チャンピオンの女性コーチSiri Lindleyに師事するため単身渡米。トップ選手との共同生活、欧米スタイルのトレーニングを経験しながらコーチングメソッドを学ぶ。2011年からは日本でトライアスロンコーチ、企業や障害者の就労支援施設などでメンタルヘルスのための運動療法指導などを行っている。

すらりと伸びた背筋に、ハキハキとテンポのよい受け答え。大きな声で屈託なく笑う姿に、話しているこちらも元気になる―政岡美里さんは、ワールドカップで八位入賞という経歴を持つトライアスリートだ。
現在はトライアスロンのコーチや運動療法の指導者として活躍中。実は彼女は、起業の学校の12期の卒業生でもある。プロスポーツ選手を経て、「身の丈の起業」にたどり着くまでの、彼女の物語を聞いた。

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若くして才能が開花

「大学に入学したら、周りはオリンピックに出ているような人がいっぱいで驚きました」。

小学生の頃からスイミングスクールに通い、中高ではバレーボール部や陸上部で活躍。スポーツが好きだった政岡さんは、体育の教師を目指して筑波大学の体育専門学群に進学した。軽い気持ちで水泳部に入ると、周りは日本のトップ選手ばかりだった。

「水泳は好きでしたが、とても練習について行けなくて。(笑)水泳部は辞めて、初心者でも始めやすそうなトライアスロン同好会に入ることにしたんです」。

当時はまだ現在ほど人気を集めてはいなかったというトライアスロンだが、政岡さんはめきめきと頭角を現した。ユニバーシアードの代表に選ばれ、日本選手権の出場権も得た。

「『この先にどんな世界があるんだろう』という好奇心や、もっと強くなりたい、成長したい、よい記録を出したいという気持ちが強かったですね」。

大学院を中退後は湘南ベルマーレトライアスロンクラブに所属。スポンサーも獲得し、プロ選手として世界各地の大会に出場した。

新しい指導法との出会い

2009年、政岡さんは元世界チャンピオンであるSiri Lindley(シリ・リンドリー)氏に師事するため、単身アメリカへ渡った。世界中から集まったトップ選手と寝食を共にしながら、氏の率いる『チームシリウス』でトレーニングを開始した。

しかし翌年、政岡さんはA型肝炎を発症してしまう。病気は治ったものの、ロンドンオリンピックの出場権をかけたレースへの参加は断念せざるを得なかった。

「ずっとオリンピックを目標にしてきたので、とても辛かったです。同時に、2002年から現役を続けてきて、そろそろ指導者への道も考え始めていたタイミングでもありました」。

シリの指導法に強く感銘を受けていたことも、コーチとしてスポーツに関わろうと決断する後押しになった。

「彼女は選手一人ひとりをよく見て、その人の目標、体力、特性、体調に合わせた練習メニューを毎日個別に作ります。選手仲間も大らかですごくフレンドリー。“Respect each other(お互いを認め合おう)”と、チームメイトがお互いに良さを伸ばし合う文化もありました」。

日本ではコーチと選手の間に厳格な上下関係があり、集団行動の規律を守らねばならないとされることが多かった。今もなお、科学的な根拠のない精神論が偏重されることも少なくない。政岡さんはこうした風潮に疑問を感じながらも、ずっと『優等生』として言われるままに振舞ってきたことに気付いた。

「アメリカでは、本来の私ってこうだったんだ!自分らしくいられる!と感じるようになりました。知らず知らずのうちに自分を縛っていたことから解き放たれたんです。」。

政岡さんは仲間から『ミニ・シリ』と呼ばれるほど、シリ氏の指導法に習熟。日本で『チームシリウスジャパン』を立ち上げることを許された。

初めての起業と挫折

政岡さんは2011年に帰国。『チームシリウスジャパン』の生徒を募集し始めると、たちまちトライアスロンに30名、ランニングには子どもも含め40名ほどが集まった。

「生徒さんが口コミで友人を紹介してくれたり、教えていた選手の一人が国体で優勝したり。どんどんお客さんが増えました」。

順風満帆のスタートを切ったように見えたが、ほどなくして大きな壁にぶつかることになる。シリに学んだ指導法は、生徒一人ひとりに丁寧に向き合うもの。政岡さんは日本の生徒さんにも徹底して個別にエネルギーを注いだ。

「性格的にもどこかで手を抜くことができなくて。いちどに何十人もの人を教えなければならない状態は、完全に自分のキャパシティを越えていました」。

すぐにアシスタントを採用し手伝ってもらうことに。しかし従業員との関係がなぜかうまくいかない。さらに、チームが有名になり、多くの人やお金が集まっていることも知られるにつれ、体を動かすことだけが目的ではない人たちも政岡さんの周りに集まってきた。

「スポーツ指導には絶対の自信を持っていたけれど、組織をマネジメントしたり、注力すべき事業を見極めたりする、経営者としての能力や自覚には大きく欠けていました」。

これまでに遭遇したことのない人間関係やお金のトラブルにも直面し、政岡さんは心身ともに疲れ切ってしまう。体調を崩し、二年ほどで事業をたたむ決断をせざるを得なかった。

復職プログラムを経験

政岡さんは仕事の関係で離れて暮らしていた夫の住む茨城県に居を移し、療養生活を始めた。少しずつ健康を取り戻してきた時、新たなチャンスを与えてくれたのは、通っていたメンタルクリニックの先生だった。うつ病などで休職中の人向けの復職支援プログラムの一環として、ストレッチなど軽い運動の指導をしてくれないかと声をかけられたのだ。

「気力と体力に溢れた選手たちしか教えてこなかった自分にとって、本当にいい経験になりました」。

運動の習慣のない人でもできるメニュー、自信を持てない人への声かけの方法。試行錯誤しながら取り組むと、ふさぎがちだった人たちが目に見えて元気になっていった。

「スポーツ指導を必要としているのは、トライアスリートだけじゃない。自分の中で価値観が大きく変わりました」。

「身の丈」を活かす起業へ

政岡さんは故郷の愛知に戻ってからも、精神疾患のある人向けの運動療法に関わりたいと考えた。その時、知り合った障害者の就労支援施設の経営者から勧められたのが「起業の学校」だ。

「一度事業を起こして苦しい思いをしているので、再び『起業』することには大きなためらいがありました。でも、今からどこかに雇われるのも…と葛藤していた時期でした」。

起業の学校では『経営の基礎の基礎』から教えてもらえた、と政岡さんは振り返る。前へ前へと進むだけでなく、理念を定め、自分と市場を知り、仲間とともに成長する『身の丈の起業』。それこそが再出発に不可欠なものだった。

「学校では久野先生も鈴木先生も、不調から快復したばかりだった私を急かさず、ゆっくりでも着実に進めるよう、あたたかく見守ってくれました」。

卒業後は指南役を努めた人たちがパーソナルトレーニングを受講してくれた。お客さんを紹介されることも増え、企業や障害者施設などでも少しずつ運動指導を始めている。

「経営者の方、会社員の方、主婦の方…たくさんの人にお会いするごとに、運動を必要としている方はたくさんいると実感します。そのたびに、もっと事業の規模を拡大するべきではないかと悩みます」。

前回の失敗を繰り返さないため、今は慎重に仕事をしている政岡さん。しかし周囲の期待は大きい。自身は得意な運動指導のみに集中し、営業やバックオフィスを他の社員に助けてもらうかたちで法人を立ち上げられないかと思案中だ。

「私に本当にできるのか、正直まだ不安です。でも、いま指導している選手には『世界を目指して挑戦しよう』と伝えているんです。言うからには私も挑戦して、成長しなければという気持ちもあります」。

自分を鍛えるばかりでなく、弱さも受け入れること。切磋琢磨しながらも、お互いに補い合うチームを作っていくこと。政岡さんは今、タイムだけでは測れない、新しいスポーツの楽しさを分かち合うレースのスタートラインに立ったところだ。

■ 取材・文/石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■ 写真/梶景子(となりのデザイン)
会報誌aile107号(2019年6月号)掲載

チームシリウスジャパン
■事業内容
・企業向け健康運動指導事業
・トライアスロン関連事業
■理念
 私たちは人々に変わる勇気ときっかけを与え、心とカラダの健康づくりに貢献します
 1 うまくなるきっかけ
 2 健やかになるきっかけ
 3 強くなるきっかけ
 4 自信をもつきっかけ
 5 挑戦するきっかけ
■キャッチコピー
「変わりたい」を応援する
■連絡先
 E-mail: info@siriusjpn.com
 URL: http://teamsiriusjapan.com/

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