Loading

起業物語[aile vol.127]

タ学びと出会いが一人ひとりの世界を変える
~生態系としての学びの場とつながりを育む~

大野嵩明 (おおの たかあき)さん 特定非営利活動法人大ナゴヤ・ユニバーシティー・ネットワーク理事長、大ナゴヤ大学事務局。
1981年生まれ。名古屋市西区出身。大阪大学大学院工学研究科卒業後、名古屋の投資会社に就職。その後、2012年に特定非営利活動法人大ナゴヤ・ユニバーシティー・ネットワークの職員となり、2017年に理事長就任。学び合いの場づくりとナゴヤを面白くしていこうと活動中。

あなたは自分が暮らすまちのことをどれくらい知っていますか?
そう聞かれて、自信を持って答えることができる人は、一体どれくらいいるのだろう。人口や主要な産業、伝統文化を知っていれば、“まちを知っている”ことになるのだろうか。
決してそうではないだろう。そもそも「まち」という言葉には、単なる行政区域ではないニュアンスも含まれている。一人ひとりにとって、その価値観やライフスタイルによってまちの意味するものは変わるのだ。そして、まちの中に行きかう人や出来事や情報は常に無数にあり、しかも日々更新されている。決して知り尽くすことのできない学びの宝庫、それが「まち」。
そんなまちをまるごとキャンパスに見立て、まちの人が先生に、学びたい人が生徒に、ゆかりの場所を教室にしながら、幅広い学びのコミュニティを形成してきたのが大ナゴヤ大学だ。
2009年の開校以来、学生登録者数は6000名、先生として関わった人の数は700名を超える。まちの文化や歴史のみならず、暮らしや働き方、アート、農業、カルチャー、ものづくり、スポーツなど多種多彩な授業を、授業コーディネーターや運営に関わるボランティアスタッフとともに展開してきた。
現在は、そこで培われたネットワークや知見、経験を活かし、名古屋の文化を一堂に集めた祭典「やっとかめ文化祭」の事務局や、名古屋城を地域の学びの場として開く「城子屋」プロジェクトの運営、名古屋のまちの中で日常的な社交場をつくる「SOCIAL TOWER PROJECT」への協力など、いろいろな組織と連携しながら、まちに関わる多種多様な事業にも取り組んでいる。

大ナゴヤ大学との出会い

そんな大ナゴヤ大学を運営するNPO法人大ナゴヤ・ユニバーシティー・ネットワークの3代目理事長を務めるのは、大野嵩明さん。「でも自分から理事長って名乗ることはないですね。いつも自己紹介では事務局ですって言ってます」と笑う。
大野さんは名古屋市西区出身。もともと「まち」「地域」といったものに関心があったのだろうか。
「いや…どうなんでしょうね。地元はもちろん嫌いじゃなかった。大学、大学院と一旦外の地域には出たんですが、漠然と働くなら地元名古屋で、転勤のない仕事がいいなとは思っていました」。
祖父が製造業を営んでいたこともあり、大学では機械工学の分野に進んだ大野さん。だが、学ぶうちに、暮らしをより便利に快適にという方向には自分の気持ちが向かっていかないことに気付いたという。大学院では工学分野と経営分野を総合的に学ぶことのできる領域を選択。地元名古屋で投資を通じて中小企業を育成・支援する企業に就職し、ベンチャー投資を担当していた。
「こういう仕事を通じて地域に貢献できるのもいいなと思ってはいました。ただ、リーマン・ショックがあって、ベンチャー投資自体が成り立たない市場環境になり、このままこの仕事をずっと続けていくのだろうかと少しモヤモヤと考えてもいました」。
ちょうどそんな頃、たまたまメディアの記事で大ナゴヤ大学の開校を知った大野さんは、開校日の授業のひとつに申し込んだ。テーマは「雑草を愛でる。」。経営者が雑草を語り、雑草の声を聴くフィールドワークやワークショップを組み合わせた授業だった。大野さんはその日のうちにボランティアスタッフに申し込み、土日や夜間の活動に参加するようになったという。「楽しかったです。組織のためにボランティアをするという感覚ではなくて、いつも新しいことに関われるのが面白かった」。
例えるならば大人の部活動かサークル活動といったところだろうか。大ナゴヤ大学の授業で先生になる人は普段の仕事とはまた別の顔を持ち、好きなことを追究したり、得意なことを極めていたり。その授業を受ける生徒たちも、誰に強制されるでもなく自らの意志で学びに来た人ばかりだ。
そんな日々が2年ほど続いた頃、大野さんは石川県の七尾市にあるまちづくり会社に社会人インターンとして参加したいと思うようになった。「5ヵ月ほどの期間で社会人インターンを募集していたんですよね。できれば会社員のまま休職して参加できないかなと思ったんですけど、会社にはダメだよって言われて(笑)。会社でのモヤモヤも続いていたし、それをきっかけに会社は退職することにしました」。

肩書や役割を越えて人が活きる組織づくり

インターンシップでは、今まで漠然と捉えていた「地域」や「まち」を個別具体的な人との関わりとして捉えなおす機会になったという。「インターンシップをさせていただいたまちづくり会社がどんどんまちの中に入っていくスタイルだったんです。この地域にはこういう取り組みをしているこの人がいて、その具体的な動きの中で結果的に今までとは違うことが起こり、まちが面白くなっていくということを改めて実感しました」。
インターンシップを終えてからのことは、特に考えていなかったという大野さん。職業訓練校でWEBのプログラミングを学んでいる頃に、大ナゴヤ大学の新規事業への参画への誘いがあったという。2011年にアナログ放送の電波塔としての役目を終えた名古屋テレビ塔が新たな新たな役目を持ったシンボルとなるようにと始まった「SOCIAL TOWER PROJECT」だ。
2012年に初めて開催された巨大イベントSOCIAL TOWER MARKETでは、2日間で約10万人の人が訪れ、各方面から大きな注目を集めた。大ナゴヤ大学はこの運営の中核的な存在であり、大野さんはこの中で事務局としての役割を担ったのだ。
「誰も経験したことのないイベントだったので、すべてが手探りでした。WEB構築から始まって、出店者のマニュアルをつくったり、道路や敷地の使用について各方面と調整したり、とにかくイベントを成功させるために必要なことはなんでもやらないと、という感じでした。新しいことを創り上げていく楽しさを感じつつ、とにかくひたすらたくさんの業務をこなしたという記憶です(笑)」。
その後、まちの歴史や文化と人が出会う「やっとかめ文化祭」など、大ナゴヤ大学は“学びの場”という枠組みを超えた事業にも取り組むようになる。大野さんは事務局全般を担いながら、2017年から3代目の理事長となった。
どんな経緯で理事長を引き受けられたのかとお聞きすると「うーん、消去法…ですかね。他にいなかったので(笑)」と大野さん。「継続的な運営を考えたときに肩書に人を当て込むって難しいですよね。一人ひとり違う個性を持っているし、肩書とともに前の人がやってきたことを引き継ぐという感覚はしんどいと思うんです。だったら肩書はなくてもいいんじゃないかと今は考えています」。経理や財務も含めたバックオフィスの部分に関しては、職員だったころから担当していたこともあり、理事長になったからといって特に何かが変わったという意識はなかったそうだ。「任されたことをきちんとやる。昔も今もそれだけですね」。
現在専従のスタッフは大野さん一人だが、様々な専門性や個性をもつメンバーとは業務委託の形でチームをつくり、運営を担っている。既存の形式にこだわらず、その時々でフレキシブルに動いていくのが大ナゴヤ大学流だ。

環境をつくる、土壌を耕す

「自分自身には明確にこれがやりたい、というのはそんなにないんです。自分以外の誰かがやりたいことができる環境をつくったり、その様子を見ているのが好きなんです。そういう意味では、今も理事長として全体を見渡して、きちんとお金をまわしていくという役割は合っているのかもしれない。ただ、その役割も他の人がその肩書を使った方がいいとなればいつでも渡したいとは思っています」。
みんなが自分の興味関心のあることに取り組めば、自ずと仕事はうまく行く。面白いものになっていく。誰かがやりたいことはその人に任せ、自分はあまり人のやりたがらない部分を担いながら全体が上手くいくように調整していくのが大野さんの立ち位置のようだ。
だた、そのまなざしはいつもしくみというよりは「人」に向かっているように思える。「大ナゴヤ大学に関わっている人たちも、何かを明確に持っているというよりは、人と出会って関わっていくことで変化していく人が多いように思います。不確実性のようなものも含めて、そういうのが面白いなって思います」。
大ナゴヤ大学で月に1回開催している「大ナゴヤの日」は大野さんがこれからも大切にしたいと考えている取り組みだ。参加費は無料、様々なテーマでボランティアスタッフが中心となって授業を企画・運営する、大ナゴヤ大学の原点とも言うべきプロジェクトである。
「大ナゴヤ大学は偶発的な出会いの中で新しい事業が生まれたり請けたりすることもありますが、この大ナゴヤの日だけは自分たちの意志をもって継続したいと考えています。人と人が出会って生まれていく変化が、いつしか生態系のようになっていくといいなと思っていて、それには時間がかかるし、時間をかけるだけの価値のあることだと思っています」。
「あなたがいれば、カタチが変わる」。大ナゴヤ大学がずっと大切にしてきた言葉だ。まず人がそこにいる。人と人が出会い、つながり、変化し、行動する。その積み重ねがまちや社会をつくっていく。目には見えない微生物が生態系の中で大きな役割を果たしているように、大ナゴヤ大学は、そして大野さんはこれからも人が学び、出会い、つながる場を豊かに耕し続けていくのだろう。

 

■ 取材/久野美奈子(起業支援ネット代表)・石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■ 文/久野美奈子(起業支援ネット代表)
■ 写真/梶景子(となりのデザイン)
会報誌aile127号(2024年12月号)掲載

大ナゴヤ大学(特定非営利活動法人大ナゴヤ・ユニバーシティー・ネットワーク)
■理念
あなたがいれば、カタチが変わる
ナゴヤを舞台に、
創造と発見で、
一人ひとりの世界を変える
■事業概要
・大ナゴヤ大学(まちをキャンパスに見立てた学びの場づくり)
・まちシル(まち歩き形式のプロジェクト)
・やっとかめ文化祭(名古屋の文化を一堂に集めた祭典)
・城子屋(名古屋城を地域に開かれた学びの場とするプロジェクト)
など
■連絡先:
〒460-0011 名古屋市中区大須3-42-30 ALA大須ビル 201
電話番号 070-5459-8213(代表)
E-mail dai-nagoya@univnet.jp

 

起業支援ネットからのお知らせ

▼起業(生き方含む)及び経営について相談したい方
「起業・経営相談」へ
▼身の丈起業や関連テーマの講演・研修をご依頼の方
「講演・研修」へ

 

関連記事

  1. 起業物語 [aile vol.104]
  2. 起業物語[aile vol.119]
  3. 起業物語(特別編)[aile vol.124]
  4. 起業物語 [aile vol.98]
  5. 会報誌「aile」vol.61
  6. 起業物語[aile vol.118]
  7. 起業物語[aile vol.116]
  8. 起業物語(番外編)[aile vol.106]

最新情報


ブログ




起業物語「aile」:最近の記事

起業物語「aile」:アーカイブ

関連リンク


PAGE TOP