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起業物語(特別編)[aile vol.124]

命を受け継いでいく 「起業の学校」の20期に寄せて

2005年に開校した「起業の学校」は今年5月に20期を迎えます。300名以上の卒業生を送り出してきた起業の学校は、この期を最後の募集とすることとなりました。20年に及ぶ歴史の中で起業の学校が成してきたこと、起業家を取り巻く現在の状況やこれからについて、代表理事の久野美奈子、副代表理事の鈴木直也、理事で起業家教育を専門とする名古屋市立大学教授の鵜飼宏成が語ります。

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起業の学校ならではの方法

鈴木:起業支援ネットは創業時から、自治体などに依頼されて各所で起業を考える人のための講座を実施していました。でも創業者の関戸さんは「私は<学校>をやりたい」と。未来デザインを軸にした連続講座の構想を始めました。

鵜飼:その頃、関戸さんに頼まれて講座のワークシートを作ったのですが「これじゃないのよね」と言われてしまったことを覚えています。(笑)思えば、当時から他とは違う「起業支援ネット流」の支援の方法があったのではないでしょうか。

鈴木:単発の講座では、マーケティングや収支計画の作り方といった、ビジネスプランに重きを置いた内容になりがちでした。起業支援ネットはもっと「人」に寄った支援をしたい。その人の人生や生きざま、抱えている課題と向き合って、起業を通してそこにどんな肉づけをしていくかに関心があるのだと思います。

久野:一回ずつの講座だと、受講生との関係もそれきりで終わってしまう。関戸さんはもっと生徒さんを抱きしめたかったんじゃないかな。関戸さんは生徒さん全員にお手紙を書いて、毎回次の授業の教材と一緒に送っていたこともありました。

鈴木:「起業には仲間が必要」ともよく言っていました。先生と生徒の関係だけではなく、休み時間や放課後に夢や悩みを語り合う仲間が大切なのだと。

鵜飼:起業家が卒業した後も戻って来られる「母校」を作りたかった、ということなのでしょうね。

起業家の人生とも向き合う

鵜飼:「起業の学校」の最もユニークなところは、起業家個人の「命の使い方」を支える役割を担っているところですよね。世の中の多くの起業支援は個人ではなく「事業」の成長にフォーカスしているでしょう。

久野:一期生の三澤真さん(現:みさわこころのクリニック院長)は、卒業までに事業計画を書くことができませんでした。けれど、関戸さんは彼の姿こそが起業の学校における「成功だ」と確信を持って言っていました。理念を作る過程を通して、自分の叶えたい生き方と、その手段としての「医師になる」という目標を見つけることができた。それは十分に卒業に値する成長だ、と。

鈴木:起業の学校は「コミュニティビジネスの担い手を増やしたい」と考えてきましたが、あえて「コミュニティビジネス」という看板は掲げていません。「自分を取り巻くコミュニティの問題を、自分たちで解決する」というコミュニティビジネスは「学ぶ」ものなのか、という疑問を持ってきたからです。
「良いビジネスモデルだから、真似しよう」という手法ではできない。その人が何に困っていて、何を大切にしたいか。そしてそれにどうアプローチするかをそれぞれに考えることからしか、コミュニティビジネスは生まれないものだから。

鵜飼:私は起業の学校が生徒を「先着順」で受け入れることにも驚きました。他のスクールは面接や入学試験をすることも多いですよね。

久野:「起業できそうな人」を選んで支援したくはないんです。事情があってすぐには起業できない人も、ゆっくりと力をためていくタイプの人も、誰でも「起業」を学べる学校でありたい。

鈴木:とはいえ、多様な起業のあり方を応援したい思いと、生徒さんたちにビジネスを起こしてほしい気持ちの間で葛藤があったことも事実です。当時は他に起業家をサポートする場が少なかったこともあり、初期の頃は事業計画やビジネスモデルづくりに今より時間をかけたこともありました。

久野:でもやっぱり「起業の学校」が重きを置くのはそれだけではないなと。入学する生徒さんにも私たちが大切にしたいことを分かっていただかなければと思い、10期の頃からは「命の使い方を学ぶ場所」というコンセプトを前面に出すようになりました。

鈴木:法人を作ったり事業を始めたりと、一般的にイメージされる「起業」をしなくても、起業の学校は卒業できる。だからといって決して楽なわけではない。こちらが起業の仕方を教えるというよりは、生徒さんが自身の命の使い方を自ら「学ぶ」場所なので。

久野:とことん自分と向き合うプロセス自体が容易なことではないし、苦しんでやっと創り出した事業計画に、指南役から厳しい指摘を受けることもある。でも、実際に起業したらもっと辛辣な評価も引き受けなければならない。この過程自体が、その人の起業人生を支えるものになると信じています。

鵜飼:起業の学校は自分の信念や覚悟、宿命といったものが定まる場所なのですね。だからこそ起業家にとっては自分の理念に立ち返る「戻れる場所」となるのでしょう。

「行きつ、戻りつ」を応援する

鈴木:以前に比べると生徒さんたちが授業でワークシートを書くのに苦心して、時間がかかるようになっていると感じます。昔よりも今は膨大な情報を手軽に得られるようになったけれど、人生で何を大切にしたいか、どんな社会であってほしいかを考えることは難しくなっているのかもしれない。

久野:今の社会の中で生きづらさを感じる人が増えているし、生きづらさを抱えながらも「起業」の中に人生の次のステップを見つけようとしている人たちも増えたのかなと感じます。

鈴木:「起業の学校」では生徒さん自身の生き方と社会との接点として「事業」や「事業のコンセプト」の指南をするのですが、それ以前に自分のありたい姿とか、どんな人生にしたいといった根本的な考え方をまとめることに苦労する方も多い。

久野:でも、そうした状態にある方が起業を目指してはいけないということではないと思うのです。
「起業」とは、自らの意志で社会と関わること。従業員として働いている時には分からないこともたくさんあります。それは自分が起業支援ネットの代表になったから分かったことでもあります。厳しいことも多いけれど、誰かに「やらされている」ことは何もないんですよね。うまくいくこともそうでないことも、誰かのせいにしなくていいのは心地よいことです。

鈴木:最初から「命の使い方を学びましょう」と言ってもピンとこないかもしれないけれど、「起業」というフィルターを通しているからこそ、その人らしい「命の使い方」が見えてくるんですよね。

久野:起業の学校自身も試行錯誤を重ねてきました。通信クラスや福島キャンパスも作りましたし、事業計画をもとに「共同学習」や「社会実験」のステップに進む「後期課程」を開講したこともありました。

鵜飼:〔想い醸成期〕・〔共同学習期〕・〔社会実験期〕というコミュニティビジネスの発展段階のモデルは分かりやすいし、起業の学校はこのプロセスを大切にしていることも素晴らしい。
どんなに良いとされていたビジネスモデルも、今やすぐに古くなってしまうものです。時代が変わっても、起業の学校で学ぶことは変わらず色褪せません。起業家がどんな理念を持っていて、どんな姿勢でビジネスに向かっているかは、実はベンチャーキャピタルと向き合う際にも重視されることなんですよね。

久野:スキルやノウハウだけでは足りなくて、その人の生き方に相応する事業計画こそが力を持つことは、20年間、生徒さんたちの起業に向かうプロセスを見続けさせてもらえたから気づけたことです。
先日、卒業して15年以上経ってから起業され、今では従業員50名ほどの規模の企業を経営している卒業生の方から連絡をいただきました。「20年を経た今も、起業の学校で学んだことを思い出している」と言っていただいて。もちろんその卒業生の方の成果なのだけれど、「いつか必ず役に立つはず」と生徒さんを信じて続けてきたカリキュラムの力を感じました。

鵜飼:スタートアップの支援は事業内容や事業の成長率ばかりを見て評価しがちです。けれど、ビジネスを続けるために重要なのはそのプロセス。社会実験がうまくいかなかったら共同学習や想い醸成期に立ち返ってもう一度挑戦できるか。ビジネスは一直線に進むものではありませんよね。「行きつ、戻りつ」のプロセスを繰り返し続けられる起業家は強いんです。

久野:「起業の学校」は「行きつ、戻りつ」の方法を教えているとも言えるかもしれませんね。そして、その力は今の社会では育まれにくくなっているようにも思います。

「私たち」が受け継いでいく

―たくさんの起業のプロセスに寄り添ってきた「起業の学校」ですが、今年5月に開講される第20期をもって、ひと区切りとされるのですね。

久野:「起業の学校」が世の中での役目を終えたとは思っていません。けれど、関戸さんから学校を受け継いでから10年、どこかで節目を作りたいとは考えていました。

鈴木:特にコロナ禍以降、対面での授業や2週間に一度の通学というスタイルにハードルを高く感じる方が増えたのでしょうか。受講生が以前のようには集まりにくくなっていたことも事実です。でも、やっぱり「クラス」が作れないことには「起業の学校」とは言えません。
仲間がいて共に学びあうといった、関戸さんの思い描いた学校の原風景をこれからの10年も残せるだろうか、と思うと相当に難しい道になるとも感じました。ともすれば、継続だけを目的に「起業の学校」を続けることになってしまうかもしれない。それが私たちの「命の使い方」だろうかと。

久野:一方で、「起業の学校」は私たち起業支援ネットのスタッフだけが引き継いだものではありません。いつも手弁当で惜しみなく卒業生にアドバイスを届けてくださった指南役のみなさんもそうですし、なにより300名を超える卒業生がそれぞれの場所で「起業の学校」で学びあったことを発揮してくれています。昨年9月から3回にわたって開催したトークイベント『わたしたちの起業物語 -命の使い方をめぐる6つのストーリー-』でも、卒業生の皆さんが悩みながらも仲間とともに「行きつ、戻りつ」を重ねて、その方らしい豊かな起業物語を紡いでおられることを深く実感しました。
これからも、かたちは違っても「みんなで起業の学校を背負っていく」という命の使い方をしていきませんか、と皆さんにお伝えしたいですし、きっとそうなると信じています。
うれしいことに、5月からの第20期にもすでにたくさんのお申し込みやお問い合わせをいただいています。これまでに卒業生の皆さんや指南役の皆さんから教えていただいたことを、これから出会う生徒さんたちとも丁寧に分かち合っていきたいと考えています。

 

■ 取材/石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■ 文 /石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■ 写真/梶景子(となりのデザイン)
会報誌aile124号(2024年3月号)掲載

座談会メンバー
■久野美奈子 (くのみなこ)
起業支援ネット代表理事。民間企業にて人事(採用・社員教育他)、営業に従事したのち、2002年よりNPO法人起業支援ネット勤務、2009 年より現職。2021年より、「小さな声・小さな物語の依り代に」をテーマに、インタビューやライティング、記事制作のディレクションおよび非営利組織職員のキャリアコンサルティングを手掛ける『きくとかく』を創業。
■鈴木直也 (すずきなおや)
起業支援ネット副代表理事/起業の学校副校長。経営コンサルタント会社にて社員教育企画、人事コンサルタント業務に従事したのち起業支援ネットの役員に就任。理念型・創発型経営のコンサルタント業を営む。
■鵜飼宏成 (うかいひろなり)
起業支援ネット理事。㈱住信基礎研究所(現・三井住友トラスト基礎研究所)を経て2000年より愛知学院大学経営学部教授、地域連携センター所長。2019年4月より名古屋市立大学大学院経済学研究科教授、同大学長補佐(スタートアップ・イノベーション担当)。専門はアントレプレナーシップ教育(起業家教育)の研究と実践、起業家論、ベンチャービジネス論。

 

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