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起業物語 [aile vol.110]

分からないこと、困っていること、まだ言葉にできないことが、私たちのコミュニティをつくっていく

小池達也(こいけたつや)さん
1988年東京生まれ。東京農工大学院を卒業後、建設系総合コンサルタントに入社し、総合環境調査や環境影響評価を担当。「自分たちの地域を、自分たちで持続可能に運営できる社会を作りたい」という想いから、国際協力NGOでのインターンを経て、コミュニティ・ユース・バンクmomo・東海若手起業塾に参画ののち、フリーランスのNPO・ソーシャルビジネス支援者として活動。
2018年には「地域のコモンズと評価に関する研究会」「現場視点で休眠預金を考える会」に参加。現在は岐阜県揖斐川町谷汲地区に居を構え、「問いを共有し、仲間を見つけるための場所」よだかの学校代表理事、谷汲のしごとづくりの拠点「谷汲はたらくラボ(畑オフイス)」運営メンバー。

貧富の格差が拡大し、度重なる災害が人々の生活に大きな影響を与える中、NPOへの関心が高まっている。貧困にあえぐ人たちを支援する団体など、マスコミにも取り上げられ、クラウドファンディングなどを通じて多額の寄付を集める団体も珍しくなくなってきた。

一方で、多くのNPOは広報力も資金力もない小さな団体であることがほとんどだ。暮らしと地域を自分たちの力で良くしていきたい。しかし、お金も人も集まりづらく、細々と活動を続けていくだけでもせいいっぱい。大きくて成功している団体のように、活動の「成果」を分かりやすくアピールし、たくさんの人の「共感」(寄付)を集める努力をした方がいいのだろうか。悩む団体も多い。

NPO向けの助成金や補助金を申請する際にも、活動によって何が生み出され、何が変わったかを具体的な数値で説明するよう求められることが増えてきた。団体の活動を評価するために大切なことではあるが、「成果を出さなければならない」というプレッシャーが、活動を型にはめ、市民活動の持つ自由さ、自発性、しなやかさといった魅力を奪っている側面もある。

そんな中、NPOの活動の「評価」や「価値」、そして「NPOとは」「市民活動とは何か」という問いに、まっすぐ向き合う勉強会を開催していたのが小池達也さんだ。評価や科学的エビデンスの研究者であり、静岡で市民が若者の就労を応援する「静岡方式」を確立した津富宏氏や、「シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」の創設者であり、1998年のNPO法成立の立役者である松原明氏を講師に迎えた勉強会は、東海地方のNPO関係者はもちろん、全国から参加者を集めた。「私たちは、どんな社会を作っていきたいのか」-突き詰めればこれが勉強会のテーマであり、多くの人の関心と危機感に訴えるものだったのだろう。

しかし、小池さん自身からは重々しい気負いは全く感じられない。強い問題意識を持ちながらも、朗らかで物腰が柔らかく、何よりも新しいことを学ぶ楽しさに満ち満ちている。その伸びやかさこそが、市民活動の草創期を知るベテランから、これからNPOに参加してみようという若手まで、多くの人を仲間にしていくきっかけになっているのだろう。

小池さんは岐阜の谷汲という、山間の静かな町に住んでいる。名古屋から大垣市までJRで40分。大垣から一両だけの小さな列車に揺られること20分。小さな駅を降り、田んぼの中の小さな古民家を訪れる。小池さんが地元の仲間と運営しているという谷汲のコワーキングスペース『畑オフイス』だ。時々激しくなる雨音を聞きながら、広い縁側のような部屋でお話を聞かせてもらった。

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「環境を守っている」のは誰か

現在は愛知・岐阜を中心に活動する小池さんだが、出身地は東京だ。

「僕の育った世田谷区は、川や森で子どもたちが自由に遊ぶ『プレーパーク』など、外遊びを大切にする育児サークルがたくさんありました。小学生の時はボーイスカウトに入っていたので、自然を身近に感じていました」。

中学や高校では環境問題や公害にも興味を持ち、環境系の学部へ。大学院へ進んだ後、名古屋の建設系総合コンサルタント会社に就職。会社では海水や海洋資源の調査を担当した。環境に関わる仕事にはやりがいを感じたが、もどかしい思いもした。

「調査の結果をもとに、開発や工事についての提言をするんです。でも、どうしても後追いの仕事になってしまう。
名古屋港を埋め立てる前に、貴重な魚や生物がいないか調査する。するとスナメリという動物がいることが分る。でも、スナメリは回遊するから、埋め立てても他の海に行くだけだよね?と言われてしまう。丁寧に調査をしても、結局は僕たちが発注者に対して影響を与えることはほぼできない構造なんだな、と。現状をこう変えましょうとか、海をきれいに保ちながら開発しましょう、とはなかなかいきませんでした」。

担当していた現場の一つに藤前干潟があった。一時は名古屋市のごみの埋め立て予定地となっていたが、豊かな生態系を守ろうと、市民団体が広く訴えて開発から守ってきた場所だ。運動は市の政策にも影響を与え、大幅なごみの減量にもつながった。

「運動が一段落した後も、定期的に『藤前干潟協議会』が開催されていました。机の片側に開発側-工事の会社や愛知県、名古屋市の人と、コンサルとして僕の席。向かい側が市民側です。野鳥を守る会とか、ゴミを掃除するボランティアの人たち。彼らが僕たちが出したデータにコメントをくれる。それが「こういうことを言ってくれる人がいないとダメだな」と唸らされるような内容で。市民団体の人たちのおかげで、干潟の現状が分かるんです。僕がこちら側にいることが、少し悲しくなった時もありました」。

市民セクターとの出会い

同じ頃、名古屋NGOセンターが主催していた『ESD(持続可能な開発のための教育)ファシリテーター養成講座』に参加するようになった。

「当時は『持続可能性』といえば自然環境のことだけだと思っていました。環境問題をどう教育していくか?と、今思えばすごく上から目線なことを考えていました。(笑)」

講座に来た人たちの興味は様々だった。話を聞くうちに、社会には環境の他にも人権、福祉、国際理解など多様な課題があり、しかもそれらが全てつながっていることに小池さんは気づく。

「『ワークショップ』という話し合いの方法を経験したのも初めて。自分の意見をしっかり受け止めてもらえている実感がありました。それまでは自分がこんな意見を持っているとか、不安や怒りを感じているなんて人に言ったことはなかったのに、年齢がずっと上の人とも、同じ世代の人とも、心地よい距離感を保ちながら本当に思ったことを言いあえる。こんな場があるんだ、と感動しました。」

続く2014年にはNGOスタッフ養成講座「Nたま」も受講。この頃には会社を辞め、Nたまで知った認定NPO法人ソムニード(現:ムラノミライ)のインターンシップに参加。高山市とネパールで一ヶ月ずつ、地域づくりの活動をした。帰国後、名古屋のNPOバンク「コミュニティ・ユース・バンクmomo」の職員となる。

「藤前干潟の話し合いを通して、当時は市民の側にもプロというか、活動で食える人がいるといいなと思っていたんです。だから、市民セクターにもっとお金が入るためのきっかけが見つかるのでは、と考えて入りました」。

価値を測るのは誰のため

momoではソーシャルビジネスで起業を目指す人を応援する『東海若手起業塾』や、地域の金融機関の職員などがNPOの活動の価値を測定する『NPOの社会的価値「見える化」プログラム』などに携わった。

「見える化プログラムでは、注目され始めていた『SROI(Social Return on Investment: NPOの事業が社会にもたらした価値(社会的インパクト)を貨幣価値に換算して示す)』という手法を使いました。今までNPOや社会問題に関心の無かった人たちが実際に現場に行って話を聞いたりして、新しい関係ができていくのがすごく面白かった。

ただ、続けるうちに一抹の違和感を覚えるようにもなりました。なぜ価値をお金に換算して測るのだろう?と。喜んでもらえて良かった、こういう価値があった、ではダメなのかな?と。 

でも、SROIについて色々調べてみると、NPOの事業を寄付や助成金といったお金を通じて、大きなマーケットにしていくための準備運動のような位置づけになっていると感じました。実際、イギリスではすでにそうなっていた」。

欧米では、行政が行っていた事業を民間企業に委託し、事業が当初の目標を達成した場合にのみ事業の資金提供者である投資家に報酬を支払う「SIB(ソーシャルインパクトボンド)」という仕組みが取り入れられていた。このとき、事業の評価に使われた指標がSROIや社会的インパクト評価だ。

「今もmomoがやっていたこと自体には意味があり、問題ではないと思っています。でも、こうした評価の方法が、どんな社会の要請からきているのかは知っておく必要がある。そう考え始めたのが2018年の初め頃でした」。

日本でも10年間取引がない口座にある預金を、社会課題の解決に取り組む民間団体のために活用する「休眠預金等活用法」が施行された時期だった。年間700億円とも言われる巨額の資金がNPOなどに流れ込むことになる。法律のねらいとして「社会的投資市場」の拡大が明記され、また、休眠預金の助成を受ける団体に求められていたのが、社会的インパクト評価だ。暮らしを支える仕組み作りや、人々が善意から自発的に行ってきた活動を市場化して本当にいいのだろうか。そんな不安の声も高まっていた。

共同学習を通じて仲間をつくる

「起業支援を通じてたくさんの経営者の考え方に触れることができたし、すごく刺激を受けました。でも、ビジネスとは違う方法でできることも学んでみたいという気持ちが大きくなったんですね」。

小池さんは2018年の2月にmomoを退職。東京で開催された「社会的インパクト評価を評価する」という勉強会に参加し、津富宏氏と出会う。

「津富先生から、やってきたことに違和感を持っているなら、勉強会をしてコミュニティを作ってみたら、と教えてもらったんです」。

すぐに仲間に声をかけ『地域のコモンズと評価に関する研究会』を立ち上げ、連続講座を行った。市民活動の市場化に不安を感じる人も、社会的インパクト評価の導入にポジティブな人も集まった。講座は問題意識や共通となる言葉の意味を丁寧に確認し、議論の内容はオープンにしてSNSなどで公表した。会は『コモンズ・カフェ』と名付け、参加者が自由に、和やかに話し合える雰囲気を大切にした。

NPOの現場で活動する人たちの率直な思いと、津富氏や松原明氏をはじめとする講師の理論が相まって、参加者が互いの活動を見つめ直す機会となった。NPOが「社会課題の解決」を請け負おうとして、「支援する人・される人」という分断を生んでしまたことへの反省。市民一人ひとりが社会を作る活動に参加し、互いに協力していく機会と仕組みを作ることこそ、NPOの役割であるという気づき。分かりやすい「成果」に流されることなく、本当に大切にしたい価値を発見できた。

「勉強会を1年やってみて、理想的なコモンズのあり方ってこうだよねというのが分かった。じゃあそれを実際に作っていくにはどうしたらいいのか。その方法を知りたいと思ったので、次は『市民社会の力学と哲学』という別の勉強会を始めました」。

ゴールの見えない問いに出会ったら、分からないまま仲間と話してみる。ともに学び考えながら、話したことを発表すると、また新しい視点が生まれる-そんな流れが小池さんの行動パターンとして身についていった。

「西濃の仲間と立ち上げた『よだかの学校』でもやりたいのはそういうことなんです。モヤモヤしているとか、困っていること、知りたいことがある人が中心になってコミュニティを作っていけたら」。

新しい『評価』の方法を確立したい

色々な話に興味深く耳を傾け、人の意欲を引き出す力。起きていることをフラットに捉え、的確な言葉にする力。小池さんの強みが周りの人にも知られるようになり、今では様々な団体から仕事の依頼が舞い込む。プロジェクトのファシリテーションや、事業報告書をまとめる仕事、そしてNPOの「評価」にも携わっている。福岡の認定NPO法人アカツキが取り組む『草の根NPO「振り返り」評価手法の構築』のプロジェクトだ。

「目に見える成果や数値だけではなく、『草の根NPO』と呼ばれる小さな団体が、ステークホルダーとの対話を通じて、新しい価値を見出すための評価手法が作れないかと研究しています。僕たちはそれを『振り返り評価』と呼んでいるんですけど。

NPO法人の『組織内民主主義』が不足している、というのが今の僕の関心事です。NPO法人は、いろんな人たちが集まって議論して活動をする。議論して決めるから、市民どうしが相互にある種の緊張関係のもとで活動できる。そのことが不正を防ぎ、信頼性を担保していると思うんです。でも、実際は強いリーダー一人の意見で決めてしまったりと、組織内での議論があまりできなくなってるんじゃないかと。

「『振り返り評価』を通じて、どうしたらいろんな人たちが自分たちの団体の評価に参加していけるか-特に、団体内で権力を持っていない人たちの意識や意見を、いかに団体の意思決定にフィードバックさせていけるかにチャレンジしたい」。

外から押しつけられるのでも、決めてもらうのでもなく、自分たちで自分たちの価値を見出していくこと。小さな声にも耳をすませ、まだ気づいていない事実を見ようとすること。小池さんが仲間とともに追究する「評価」は、人と社会へのまなざしをもっと豊かに、多様にしていくための道具のようだ。それはきっと、小さくてもゆっくりでも、自分たちの力で自分たちの住む地域を作っていこうとする人たちを力づけるものになるだろう。

自分と仲間と社会の感性を信じる

「今はNPOのお手伝いをすることが仕事ですけど、そこに依存しちゃうと、いつか僕が問題を作り出す側になるような気もするんですよ」。

小池さんはNPOや市民活動の持つ魅力や可能性を大いに感じながらも、それ自体を目的にしてすがることはしないと語る。

『フリーランスのNPO支援者』は、決して安定した仕事ではない。小池さん自身も不安にならない訳ではないが、焦らず取り組みたいことにじっくりと向き合いたいという。

「これは起業支援ネットの久野さんに3年くらい前に言われたことなんですが『自分が興味を持ったことを、ちゃんと面白がって突き詰めて行けば、なんとかなるんじゃないか』と(笑)。でも、本当になんとかなるかもっていう気持ちに今、ようやくなれた。これが良いと言われているからとか、食えそうだから、ではなくて『これが大事だ』と僕が思うことに真剣に向き合うことを大切にしたいし、周りからもそこに期待されているんだとだんだん分かってきて…」。

小池さんは、自分や社会を「こう変えて行きたい」と高らかに宣言することはしない。自分と仲間と社会を信じて、その力を発揮できる仕組みや環境を自分たちで作っていこうとしている。それが実現できれば、社会は自然と、しなやかに変わっていくのではないだろうか。

「しばらくはきちんと自分の関心事を掘り下げる力と、一緒に掘り下げる仲間づくりに注力していきたい。掘り下げる力がちゃんとつけば、いい仕事ができるんじゃないかなと思っています」。

■ 取材・文/石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■ 写真/梶景子(となりのデザイン))
会報誌aile110号(2020年9月号)掲載

■理念
 自分たちの地域を、自分たちで持続可能に運営する
■連絡先
 https://note.com/tatkoike/n/n1642a17233d8

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