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起業物語(番外編)[aile vol.106]

”身の丈”の可能性を信じて
~起業支援ネット20周年・久野代表就任10周年記念座談会

起業支援ネット・メンバー

NPO法人起業支援ネットは今年20周年。そして、創業者の関戸美恵子から久野美奈子に代表を交代してから10年となります。時代の流れとともに「起業」をとりまく環境も、「支援」に対する考え方も大きく変化してきました。今回のaileは特別編として現在のメンバー4名に、時に悩み、迷い、そして関わってきた多くの人たちそれぞれの「小さな物語」に励まされてきた起業支援ネットの歩みを語ってもらいました。(取材/石黒好美)

起業支援ネットからのお知らせ

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―4人の中では、副代表の鈴木さんが一番早く起業支援ネットに入られたんですよね。

鈴木:創業者の関戸さんは、最初は女性の起業を応援していたんです。僕は関戸さんの講演を聞いたことがきっかけで知り合って、最初は「女たちの起業祭」という女性だけのイベントを手伝ってって言われたの。僕、男だけどいいんですか?って聞いたら「いいの、いいの」って。

久野:関戸さん、言いそう(笑)。昔は派手な企画もやってたんだよね。

鈴木:女性がやりたいビジネスって、暮らしに身近なものが多かった。でも、当時は規模が小さくてお金を借りられなかったり、応援してもらえないという問題にぶち当たっていた。

久野:サークルやボランティアでやれば、って言われたりした時代。

鈴木:その後、身近な問題に気づいて起業したい人には男性もいるのに、なぜ女性だけ?と言われたらしいんです。それで、女性という括りを外して起業支援ネットにしたと。
身近な課題を自ら解決していく。それは自分おこしでもあり、仕事おこしでもあり、地域おこしでもある。それを経済的に力がない人がどうやるかと考えた時に、寄ってたかって、助け合ってやるしかない。みんなで少しずつ持ち寄って、ごちゃまぜで。関戸さんは当時「この手法が最も生きるのは商店街だ」と考えた。

森:それで、事務所を僕の実家の近所の大門商店街に移したんですね。僕は当時大学生で、まちづくりに興味があったので、関戸さんがやってた商店街のワークショップに参加するようになりました。

鈴木:最初はまちづくりと言っていたけど、イギリスから入ってきた「コミュニティビジネス」という言葉を見つけて「これだ!」と。それで、各地のコミュニティビジネスの事例を調査して「コミュニティビジネスガイドブック」を作った。そのガイドブックを教科書にして、起業の学校も始めたんです。

「支援すること」への戸惑い

鈴木:ガイドブックが注目されて、経済産業省のコミュニティビジネス推進に関する事業も受託しました。でも、世の中は「コミュニティビジネスに雇用創出効果がある」という話の方が大きくなって。経産省の事業も、最初はコミュニティビジネスだったのに、翌年からは「ソーシャルビジネス」推進事業という名前になった。

久野:2007~8年頃ね。社会課題の解決とビジネスを両立させる、ソーシャルビジネスによって当時の自分たちが突き当たっている壁が乗り越えられるかもって私も思ってた。

森:僕は学生時代にソーシャルビジネスを知って、社会を良くする方法として当たり前だと思っていました。でも、起業支援ネットに入ったら皆さんはソーシャルビジネスに疑問も持ちながら働いている。なぜだろう?と。

久野:「支援する」ことに対して、強烈な違和感を感じた経験があるんです。ソーシャルビジネスに関する仕事をした際に、他の中間支援や起業支援の団体と一緒になったことがあって。その時、私たちが応援していた起業家さんに対して「この人のやり方では社会課題は解決できない」「そんな人を支援してどうなるの?」って言われて、すごくショックを受けた。私たちの不足を指摘されるのは全然いいんですけど、まがりなりにも自分でリスクをとって起業した人のことをそんな風に言うのかと。

鈴木:社会にその事業が必要かどうかという線引きをして、課題解決というゴールに向けて事業のプロセスをあてはめていく考え方だと、そぐわないタイプの起業家さんだったんだよね。

久野:支援者が正解を知っていて、それに合う人を応援するっていう空気が本当に辛くて。その場できちんと言い返せない自分にも腹が立った。その時、もしかして起業支援ネットは社会課題を解決したいわけじゃないのかも、って思い始めたの。

人に合わせて仕事を創る

鈴木:関戸さんはソーシャルビジネスに対してSR(社会的責任)という考えを打ち出して、代表を辞めた後「一般社団法人SR連携プラットフォーム」を立ち上げたんだよね。

森:「ゴミを排出する人/回収する人」っていう、課題と解決が分断されている構造をやめたいという考えだった。

鈴木:コミュニティビジネスはもともと「自分たちの問題は自分たちで解決する」ものだったはずなのに、ソーシャルビジネスという言葉が広がる中で「誰かの問題を他の人が解決する」となってしまった。

―関戸さんの後、副代表の鈴木さんではなく、なぜ久野さんが代表に?

鈴木:久野さんはみんなが助けたいって思うリーダーだから。まあ世論が決めた感じ(笑)。

久野:当時、私は本当に向いてないと思っていて。誰か偉い人に代表になっていただいて、事務局長のままでいたいって言っていた。

鈴木:でも最後には「私がやる」って言ったよね。

久野:言わされた(笑)。決め手は、戸上さんに「代表個人に理念が必要って誰が決めたんですか」って言われたこと。

戸上:僕、全然覚えてないです。(笑)

久野:私は自分の「理念」が作れないって思っていたの。「起業の学校」をはじめ、理念をこんなに大事にしている起業支援ネットに、理念が作れない代表ってダメでしょって。

鈴木:でも、法人の理念はあるからね。逆に自分に強い理念があったら、法人の理念とぶつかって辛くなることもあるかもしれない。

久野:みんなにそう言われて、ちょっと気が楽になった。でも今、経営判断はできているわけです、ほぼ迷うことなく。で「あったわ、私にも理念が」と。

鈴木:それは「関戸さんならどうするか」とは違う判断軸だもんね。

久野:関戸さんが亡くなった時「起業の学校」はやめたほうがいいんじゃないか、と思ったこともあった。校長がいなくなって、誰が代わりをやるの?と。でも、みんなに「誰も代わりにやらなくていい」と言われて。

鈴木:学校に校長がいなくてもいい、今までと同じでなくてもいいんじゃないって。自分たちの身の丈でやっていこうと。

久野:組織をどうするかよりも、そこにいる一人ひとりに合わせて仕事を創っていくという方針がはっきりしたのはこの時期

鈴木:紆余曲折あって、「身の丈」というキーワードに戻ってきたの。この起業支援ネットの20年は。

久野:そういえば、最近戸上さんに「久野さんに本音が言える人はそんなにいませんよ」って言われたことがあって。

一同:(笑)

久野:最初の頃は何にもできなくて、おどおどしながら人の話を一生懸命聞くしかなかった。それが辛くて、ファシリテーションできるようになりたい、人前で喋れるようになりたいとか思って頑張ってきたのね。だけど、頑張って力をつけたことで失ったものもあったんだなと。あの時だから聞けていた声があったことを、戸上さんが教えてくれた。

鈴木:逆に、今だからできることもあるでしょ。

久野:うん。でも、その時にしかできないことがあることに、なかなか気づけないんだなって思ったの。当時はやっぱり強くなりたかったし。今、強くなって愉快に生きてるからいいんだけど(笑)、それを持ってなかった時には戻れない。純粋に弱くある自分でいることはできなくなっているんだよね。

横や下にいる関係づくり

戸上:僕がスタッフで入ったのも、関戸さんが亡くなられた年ですね。

―戸上さんが「起業の学校」の福島キャンパスをやろうと考えた動機はなんですか?

戸上:震災の後、被災地3県で600~700団体を起業させるっていう経産省の助成金があったんです。僕は福島で委託を受けた団体を手伝っていました。
簡単に言うと、起業するのを条件にお金あげるっていうプロジェクト。当時、目の前の必要に迫られて立ち上がった団体がたくさんありました。でも、起業したら支援も終わりなんです、みんな素人なのに。運営の仕方も決算の仕方もわからずに途方に暮れていて。
もう一つ、福島の人たちは原発事故で生き方が揺さぶられました。様々な情報は入ってくるんだけど、「正解」があるわけではない中で判断すること、決断することを求められるという状況で。僕自身も判断できなかった。それで、振り回されないためには自分の中に“軸”が必要だと気づいたんです。それが「理念」かなと。理念がないまま立ち上がった団体が苦労している様子も見聞きしていたので、福島で理念を作るお手伝いをする「起業の学校」をやりたいと考えました。

鈴木:理念を軸とした身の丈っていう発想から、他団体との連携事業が増えてきたのも同じ時期だよね。「その人らしさ」「その団体らしさ」を考えた時に、もっと社会の中で役割分担できないか?と。今は起業したら、社長なんだから、代表なんだから、現場だけじゃなくてマネジメントもやりなさいって言われるでしょ。でも、絵を描いて人を喜ばせる人が、お金の計算してるから今日は絵が描けません、となったら、損失だよね。一人ひとり苦手なことも得意なこともある。だからやっぱり、ごちゃ混ぜで助け合っていく、その仕組みを作り直さないと。それが身の丈の本質だし。

一同:うーん、なるほど。

鈴木:それで、最近は他の団体のバックオフィスやサイドオフィスを手伝わせてもらってる。

久野:コンソーシアムを組んで、起業支援ネットが子どもや若者の支援現場の事務局を担うとか。森くんもいろんな団体の経理や労務をサポートしているよね。

鈴木:久野さんや森くんが最も得意な仕事だと思ったんだよね。

森:でも、最初に支援団体の事務局をやると聞いたときは驚きました。

鈴木:中間支援とか、コンサルをやっている団体はあるけど、こういう形の支援はどこもやってなかった。自分たちが前に出るのではなく、誰かを伸ばし支えながら一緒に成長していくという。

久野:この方法だと、一緒に洗濯機に放り込まれてぐるぐる回るみたいなことも体験する。でも、そうすることでしか見えない景色もあった。

鈴木:責任も負う。

久野:「頑張ってやれ」「なんでやらないの」と言うだけでいい、ということにはならないよね。自分たちも一緒にやっているんだから。

鈴木:上から支援するっていうのは本当にダメだと思う。うちは今、横か下だもん(笑)。

久野:確かに、バックオフィス支援の中で、「早くレシート出してよー、もうー」って怒ったりすることがあるんだけど、それははるか下から怒ってる(笑)

鈴木:自分たちが上にいると、評価して、数字で管理して、という仕事ができる人じゃないとスタッフになれない。横か下にいるからこそ、支援する側も個性を発揮して働けているんだと思う。

「身の丈」が触発することの可能性

鈴木:こういう話をしていると、じゃあ社会課題はどうするんだって言われるよね。

戸上:そうそう。社会課題は解決しなくていいんですかって。

久野:私はこれからその問いに対しては「知るか!」って答えていこうかと。

一同:(爆笑)

鈴木:自分が生み出したことでも、身近にあるものでもないのに、課題だから解決しなきゃというのは無理がある。社会課題解決しないのかと言われても、そのために人は生きてるわけじゃない。

森:でも、「社会に良いことをするのが人生の意味だ」みたいな考え方もありますよね。僕もどっちかといえばそういう感じで。条件付きではなく、生きているだけで価値があるっていうのはその通りなんだけど…。

久野:「人は何かを成し遂げなければならない」という価値観を一旦客体化しない限り、例えば困りごとを抱えた人をサポートしている現場の支援者の支援もできないと思う。一方で、社会課題解決のために自分の人生を捧げようと思う権利も誰にもあるよ。その人のやりたいことがソーシャルビジネスなら、起業支援ネットはその人を応援するし。

戸上:その人の本心から思うのだったらいい。でも、本心かどうか、本人も分からないことはよくありますよね。

鈴木:実は「身の丈」が一番つかみにくい。自分も常に変化しているから。

久野:人は本当に大切にされていれば、自ずから誰かのために、未来のためにという方向に向かうものだと信じてるところがある。でも、順番は逆じゃない。

鈴木:起業支援ネットの支援は、あらかじめ定めた姿に育ってもらうためのコースを作ることではなくて、その人の一番いいところをお互いに支えながら、それぞれの可能性や成長の喜びを大切にしていくことだと思う。

久野:そうだね。因果関係だけでは説明できないこと、未来から逆算して考えるのではない方法の可能性も大切にしたい。「命」とか「世界」って、そういうものではないかな。

鈴木:身の丈の起業や働き方を応援していけば、自然と解消していく問題もたくさんあると思う。設計して、計画して解決しなくても。どちらが正しいかは分からないけど、両方なければダメだと思う。
身の丈で頑張る人たちがお互いに触発しあって、自然に新しい解決力を生み出していく可能性について、誰かに検証して欲しいし、自分たちでも表現していかなきゃと思うんです。

久野:原因を明らかにして計画的にという方法と、身の丈を大事にするのは全く別物と言えない部分もあるんじゃないかな。身の丈でやっていても、いざという時は目標に向けて力をこめなきゃいけないこともあるし。

鈴木:「身の丈」だけでは不器用でうまく進まないときに、起業支援ネットがサポートに入ることで、階段を一段上がれる、ということはできるかも。

久野:その役割をきちんと全うすることが、起業支援ネットの身の丈なのかもしれないですね。

■ 取材・文/石黒好美(フリーライター/社会福祉士)
■ 写真/河内裕子(写真工房ゆう))
会報誌aile106号(2019年3月号)掲載

《座談会メンバー》
■久野美奈子(くのみなこ)
起業支援ネット代表理事。民間企業にて人事(採用・社員教育他)、営業に従事したのち、2002 年より NPO法人起業支援ネット勤務。2009 年より現職。
■鈴木直也(すずきなおや)
起業支援ネット副代表理事/起業の学校副校長。経営コンサルタント会社にて社員教育企画、人事コンサルタント業務に従事したのち起業支援ネットの役員に就任。理念型・創発型経営のコンサルタント業を営む。
■戸上昭司(とがみしょうじ)
起業の学校通信クラス担任。NPO・コミュニティビジネスの経営計画策定や企画支援、調査研究業務等に従事したのち独立。理念形成を軸にした起業支援、経営・運営支援、調査研究活動を行う。福島・岩手でも活動し、2015年~2017年まで「起業の学校 福島キャンパス」を担当。
■森建輔(もりけんすけ)
起業支援ネットスタッフ/一般社団法人SR連携プラットフォーム代表理事。金融機関と起業支援ネットでの経験を生かし「バックオフィス業務オーガナイザー」としてNPO等の経理・労務のサポートに従事。起業の学校(3期)の卒業生でもある。

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