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起業物語 [aile vol.102]

命の持つ可能性と回復力を支える

白石みどり(しらいしみどり)さん 株式会社スノーム 代表取締役
愛知県豊川市出身。高校時代から衛生看護科で学び、その後働きながら正看護師免許を取得。大阪の淀川キリスト教病院にて看護師として勤務し、救命救急をはじめとする急性期医療に携わる。
結婚を機に名古屋へ。愛知国際病院では終末期医療に従事。30代前半で愛知学院大学心身科学部心理学科へ進学。日刊工業新聞社主催「キャンパス・ベンチャー・グランプリ」で日刊工業新聞社賞、東京都主催「学生起業家選手権」で優秀賞受賞。
2013年に株式会社SNOM(スノーム)を創業。1男2女の母。

「働き方改革」が叫ばれている。加速する少子高齢化を背景に、一人ひとりの意思や能力、そして置かれた個々の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会を目指すものとされているが、それは、ブラック企業・サービス残業・過労死・うつ病の増加など、職場環境をめぐる様々な社会問題が深刻化していることの裏返しでもある。

株式会社スノーム(以下SNOM)は、企業をはじめとする組織を顧客とし、そこで働く人々のメンタルヘルスのサポートを通じて人と組織の活性化を支援する事業を展開している。2015年には、50名以上の従業員が働く事業所には「ストレスチェック」が義務づけられ、働く人が深刻なメンタル不調に陥る前に職場環境や個人に対して支援をしていく動きもはじまったものの、まだまだ新しい分野であることは間違いない。

SNOM代表の白石みどりさんは看護師として命の現場に携わってきたのち、SNOMを設立した。「人ってね、簡単に死んじゃうんですよ」と白石さんはさらりと語る。その意味とは? 白石さんの歩んだ道のりを聞いた。

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看護師は天職~現場で気づいた心の支援の大切さ

幼いころから自立心旺盛だった白石さんは、高校進学の時点で看護師を生涯の職業と決め、衛生看護科のある高校に進学。「はじめは“手に職を”という感覚だったんですが、学べば学ぶほどその面白さにはまっていきました」。人体の不思議、命の不思議。多くの細胞が様々な器官を構成し、それらがしくみとして絶妙にコントロールされながら、命があるということに魅了されていったという。「助けたいというよりも人間ってすごい!っていうのが原点かもしれません」。高校卒業とともに准看護師になり、働きながら更に学んで正看護師の免許を取得した。

大阪の淀川キリスト教病院に勤務し、救命救急をはじめ、急性期医療に携わった白石さん。「たくさんの患者さんに接する中で、誰でも、どんな人でも病気になりうるということ、そして、命の前では社会的な地位も名声も関係なく、誰もが等しい存在なのだということを学びました」。白石さんは、よく周りの方に“肝が据わっている”と言われるという。白石さんは「もしかしたら、生きるか死ぬかという立場でしか物を言わない、ということが染みついているのかもしれませんね」と笑う。

ただ、身体は自然に回復を志向するが、心はそうはいかないのだという。「やっぱり人間ってすごくて、どんな状況になっても身体には生きようとする力があるんです。でも、メンタルは違う。想いや感情という部分については、その作用が働きにくいと感じました」。

どんなに看護をしても、本人の生きようとする意志や力が弱まったとき、命のリスクは高まり、そのとき簡単に生から死へとベクトルを変えてしまうという。生きる目的、生きる気力、そして、それを支える周りのサポートがなければ、本当の意味で命を守ることはできない。冒頭の白石さんの「人は簡単に死んでしまう」というのはそういう意味だ。

しかし、現実問題として、看護師として分刻みで多くの患者さんの医療的なケアをしながら、心のケアまですることは難しい。「当時からそういった問題意識を持っている看護師は他にもいました。だから当時は、きっと今は心のケアまではできなくても、だんだんと改善されていくんだろうな、と漠然と思っていたんです」。

思いがけずに起業!?心理サポートを広げたい

結婚を機に名古屋に戻り、その後出産。育児休暇を終えて、現場に復帰した白石さんだが、目の前に待っていたのは、心のケアに関して数年前と何も変わらない現実だった。「驚いたんです、全然変わってないじゃん!って。それで少しずつ、“この状況は自分が変えていかなければいけないことなのかな”と思うようになりました」。

まずは、心のケアについてもっと学ばなくては、と愛知学院大学の心理学科を社会人入学の枠で受験し見事合格。3人のお子さんを育てつつ、看護師としては夜勤で働きながら、30代で晴れて“女子大生”となった。

心理学を学び、これは確かに大切だと実感する一方で、ではこれを看護の現場でどう生かそうかと考えたとき、限界も見えてきた。「看護の仕事は大好きなので、看護師として働きながら心理面のサポートもしようと考えていたんです。そうすると1日8時間看護師として働いて、そのあと何人の話が聴けるかっていうと、結局月に数人なんですよ。自分一人で頑張っても全然足りない、もっと広く展開する方法を考えなければ、と気づきました」。せっかく学べるのだからと、心理学に限らず、単位の上限まで様々な授業をとっていた中で経営学部の企画論や事業計画論と出会った。そこで心理サポートを広く展開していく方法を模索していたとき、転機となる出来事が訪れた。「授業の中で、ビジネスプランコンテストに応募をすることになり、当時考えていたことを事業計画書にまとめることになったんです」。

当時はまだ「起業をしよう」という明確な意思があったわけではなかった。ただ、これまで考えてきたことを必死でまとめ、プレゼンテーションをしたところ、複数のコンテストで入賞。そのうちの一つのコンテストでは、入賞の条件は「起業をすること」だった。「他の出場者の方は入賞してとっても喜んでいるのに、わたし一人だけ青ざめるという(笑)。でもこれまで考え抜いてきたことを実践するいいチャンスなのかな、と思って起業することにしました」。

組織への働きかけを通じて、活力を促し、人を守るサポートを

白石さんが最終的に選択した事業は、企業、団体など組織が抱えるメンタルについての困りごとや課題をサポートする事業だ。医療の現場に限らず、社会の中にメンタルサポートを必要とする人は社会に多く存在する。しかし、多くはメンタルサポートの存在も知らず、気づけば症状を悪化させ、長期療養を余儀なくされる場合もある。上司や同僚も何かおかしい、サポートが必要なのではと思いながらも、どうしたらよいのかわからず、またそのプロセスの中で職場の人間関係が悪化し、疲弊してしまうこともある。「メンタルサポートにおいては、本人への支援だけではなく、環境への働きかけが重要です。例えば従事している仕事の内容や、仕事の進め方を見直すことで、ストレスが大きく軽減されることもあるのですが、内部の方ではどうしてもその部分に気がつかず、本人の責任とされてしまうことも多い。また、家庭での悩みや個人的な困りごとが仕事に影響を与えることも多いのですが、職場の人にはなかなか相談できない現状もある。第三者がかかわることの重要性を感じています」。

組織や人事へのコンサルテーションを含め組織への働きかけをし、メンタルサポートを必要とする本人ともじっくりと丁寧に関係を編んでいく。それがSNOMの特徴だ。現在は臨床心理士、精神保健福祉士、保健師、カウンセラーをはじめ、10名ほどの専門職でチームを組み、多様な視点からの支援を行っている。愛知県は、その土地柄からか、企業における組織的なメンタルサポートや従業員の業務パフォーマンス向上のために外部からの支援を受け入れる環境はまだまだ整っていないそうだが、SNOMは創業から5年、一度契約した企業には、ずっと継続して支援に入ることができているという。

白石さんは、主に組織や人事へのコンサルテーションを担当している。「でもね、職業はなんですかって聞かれたら、今でもわたしは“看護師です”って答えます」。人間が本来持っている、生きようとする力を信じ、それが十分に発揮される環境をつくること。命が本来持っている力が途中で損なわれないようにすること。人は簡単に死んでしまう、だからこそ。

どこにいても、何をしていても、白石さんは「命を守る闘い」を続けている。そう、今このときも。

■ 取材・文/久野美奈子(起業支援ネット代表)
■ 写真/河内裕子(写真工房ゆう)
会報誌aile102号(2018年3月号)掲載

株式会社スノーム
■事業内容
・従業員支援プログラム(EAP)事業
・精神衛生の調査・研究及びコンサルタント
・研修セミナーの企画及び運営業務
・ストレス解消のためのコンサルタント及びその受託
・心理カウンセリング及びコンサルタント業務
※スノームは組織・団体を対象とした従業員支援サービス事業です。個人のお悩みには対応しておりませんので、ご注意ください。
■理念
 働く人と組織に回復力と活力を促す支援を
■連絡先
[SNOM本社]
 〒470-0132 愛知県日進市梅森町新田135-687
 TEL 代)052-856-9660 FAX 052-887-7959
[SNOM名古屋]
 〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅4丁目24-16 広小路ガーデンアベニュー4階
 http://www.snomjapan.com/

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