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会報誌「aile」vol.103

会報aile103号(2018年6月号)

地域の資源を活用して、持続可能な農村と私の暮らしをつくる

西井勢津子(にしいせつこ)さん
株式会社地域資源バンクNIU 代表取締役

「コミュニティ・ユース・バンクmomo」の立ち上げから関わり、2010年まで副代表理事。NPO法人起業支援ネットにも4年勤務し、コミュニティビジネスの起業支援、中間支援者育成事業等に携わる。その後、農山村の仕事おこし・農山漁村コーディネーター兼中間支援事業を志す。2010年6月三重県多気町丹生で起業し家族で移住。現在は、地域資源活用をミッションに、日替わりシェフの店やスローサイクリングツアー、マウンテンバイクパークの活用など地域でいくつかの事業を手掛けながら、企業との研究事業やコーディネート事業など、自転車ならびに地域資源の新規価値の創造を推進している。

名古屋駅から特急に揺られること1時間半。茶畑と新緑の緑がまぶしい、三重県多気郡多気町にやって来ました。「高校生レストラン」でも知られる、この町の丹生地区で8年前に「地域資源バンクNIU」を起業。地元の人が日替わりでシェフになるレストラン「サラダボール」や、自転車で地域をめぐるサイクリングツアーなど、ユニークな事業を展開する西井勢津子さんを訪ねました。まだ「地方創生」という言葉もなかった頃から農山村を目指し、仕事をおこした西井さんのルーツから、これからの展望までをお聞きしました。

「足るを知る」生活をめざして

私はずっと南北問題に関心があって、大学でも開発経済を専攻。「なぜ世界の半分が飢えるのか」という本がテキストでした。卒業したら、今で言うフェアトレードの仕事をやりたかったんだけど、当時は新卒で職員を募集している会社が東京に一社しかなくて。受けたけど落ちちゃって、そこで働けないならどこも同じと思って(笑)、地元の会社に就職したんです。

まだ女性の営業マンが珍しかった頃です。男性の120%くらい働かないと一人前と認められないなと感じていたんですけど、7年働いて、女性で初めての係長にもなりましたし、東京への転勤も経験しました。

東京に異動した後に「スロー・イズ・ビューティフル」という本に出会い「日本は準備社会である」と書かれていてショックを受けたんです。高校生は大学受験の準備、大学では社会人の準備、働き始めたら老後の準備と、未来のために今の自分を使っているという。私も営業職だから毎日が「準備」でした。今日の売り上げは、来年のノルマ。常に先のことを考えて、数字に追われる毎日。今日頑張った自分をほめる余裕なんてなくて。だから「準備社会」という言葉が響いたんでしょうね。

それで「本当は何の準備もしなくていいんだ!」ってタガが外れて、会社も辞めました。(笑)私、極端じゃないと生きられなくて。(笑)人の役に立ちながら、今を生きる。「足るを知る」生き方をしたいと思ったんですね。

ソーシャルビジネスとの出会い

退職と同時に結婚して名古屋に戻りました。この地域でもソーシャルビジネスが注目され始めた頃で「コミュニティ・ユース・バンクmomo」の立ち上げに関わることになりました。一番の動機は、自分が銀行に預けたお金が望むと望まざるとに関わらず、海外の国債に流れて、戦争の原資になってしまう、貧しい人を搾取することに使われてしまいかねない現状を知ったこと。私にとって看過ならないテーマだし、銀行がやらないなら、私たちでやらなくちゃ!と。

同時に、週に2日は証券会社で派遣社員として働いていたんです。グローバル・マネーの動きも知っておきたくて。大学の頃から、世の中の困りごとを最も拡大しているのは経済のしくみだと学んできたんです。今でこそ企業もCSRと言って、事業と社会貢献はセットですけど、当時はグローバル企業=悪、南北問題の根源だと思っていたので。ビジネスが貧富の差を拡大しているなら、ビジネスを通して解決しなきゃと。そしたら、起業支援ネット創業者の関戸さんに声をかけられて、それならうちで働きなさいって。(笑)

起業という道を見つける

起業支援ネットで働くうちに、それまで考えたこともなかったのに「農山漁村で起業したい」と思ったんです。コミュニティタクシーさん、エコ・ブランチさんとか「起業の学校」指南役の方の会社や、ビッグイシューのビジネスモデル、「べてるの家」のことを学んで。ビジネスを通して仕組みができていく、すごい!経済の仕組みを変える選択肢の一つに「起業」よいう方法もあるんだ!と知って、自分もできるんじゃないかと。そして何よりも、起業家の皆さんの輝く笑顔と、覚悟を持った生き方にしびれたんですよね。

私にとってのテーマは農山漁村だ!都市と農村のつなぎ手として田舎に行こう!と、思いついたものの、ビジネスモデルなんて全くなくて。三重をフィールドにしたのは、実家があるから。やっぱりやめた、ってここから逃げられないように。起業支援ネットを通じて知り合った地域のキーパーソンの方に、どこかいい場所ないですかって聞いて。当時は今と違って空き家に移住は珍しいことでしたから、家を貸してもらえただけで本当にラッキーでした。

最初の仕事も、起業支援ネットさんに協力してもらって県の事業を取りました。丹生の皆さんと毎月一緒にまち歩きをして、マップを作るというもの。「勉強させてもらう」という姿勢で、地域をなんとかしようと思う素敵な方々とつながれた、この仕事の大切さには後になって気づきましたね。

立ち止まって見えたこと

その後、丹生の「ふれあいの館」内のレストランに、地元の人が日替わりでシェフになるお店「サラダボール」を提案して運営を任されるように。翌年には、元オリンピックの自転車競技のコーチでもあった夫の西井匠を中心に、多気町を「自転車のまち」にするプロジェクトが始まり、紆余曲折の末、受託することになりました。私はここで「地域資源を活用する」から「まちづくり」へ会社の舵を切ったんです。

わかりにくいと思うんですけど、私がやりたいことは「地域資源を活用する」であって「まちを元気にしたい」というのはその結果なんです。でも「自転車のまちプロジェクト」は、自転車を通じてまちの人に喜んでもらうこと自体が目的。すごく難しいことを問われる事業だと最初は気づかなくて、とても苦労しました。

当時、サラダボールでアルバイトさん3人、まちプロジェクトで2人のスタッフを雇っていました。さらに、シェフさんたちはお店に対する思い入れが強くて一生懸命。私が他の仕事も忙しいのに決定権を持っていることに不満を持たれ、葛藤があったりもしました。今思うと、明らかに身の丈を超えた事業をしていたんですね。
さらに、この時期に乳がんが見つかり、手術することになってしまいました。私は「病気は私の声そのものだ」と思いましたね。肉体に無理をかけていたら、自分の理念も肉体に制止されちゃうんだなあって。4年半前くらいのことです。

闘病中はかつらをかぶって取材を受けたことも。病気のことを周りに言えなくて、3年くらい、少し休んだりしながら。でも、私が倒れてもサラダボールが続いたことは大きな喜びでした。シェフの皆が支えあって乗り越えてくれた。それは私のためじゃなくて、自分たちのためにやってくれたこと。この休んだ時間がなかったら、今でも「私のサラダボール」だったでしょうね。

無理なく資源の力を発揮できる事業へ

今は夫と二人だけの組織です。今年から、全国で企業に研修として農村での活動を提供しているNPO法人「えがおつなげて」の企業ファームを多気町でも実施することになり、運営を任せてもらうことになりました。大企業の方に耕作放棄地を耕してもらう予定です。起業したばかりの頃から憧れ、ずっとやりたかった事業ができることにわくわくしています。

私は「国内地域の資源が活用されないから、よそから資源を持ってくる暮らしになる」という論理でやってきました。でも、病気になってゆっくりしか進めなかった間に、世の中は変わってしまった。私たちがかつて開発途上国と呼んでいた地域に、逆に日本の資源が売られるようになっているし、国内でも格差が広がっている。

今は「この地域の人たちが農村の風景を守りたいなら、活用した方がいい」という考えにシフトしつつあるんです。耕作放棄地を活用して地域の人たちが喜んでくれることで、今のところは、十分かなと。

今までは「貧困に加担しない」という私の人生の理念と、会社の理念を分けてきたところがあるんですけど「地域資源を活用する事業を通じて、持続可能な農村づくりに貢献したい」という会社の理念の中に、自分の人生を吸収させていこうかなって。貧富の問題と私たちの暮らしはつながっていると今も思うし、解決ための方法はこの会社なのか、と考えると迷いがないわけではないんです。でも、いのちと家庭があってこそ。生み出した会社をちゃんと育てていきたいし、ずっと私を支え続けてくれた夫の技術や研究を、この地域で十分に発揮できるよう、今度は私が応援しなければという思いが強くあります。

持続可能な地域にするために、足りない担い手を増やしたい。農業という選択肢だけじゃなくて、農地を活用して企業研修という機能も持たせることができるなら、多様な仕事が生まれますよね。また、これから観光需要が見込めるエリアなので、自転車で地域をガイドする体験サービスももっと提供して、新しい仕事を増やしたいと思っています。

(取材・文/石黒好美 写真/河内裕子(写真工房ゆう))

《事業概要》

株式会社地域資源バンクNIU

■事業内容

  • 地域資源プロデュース事業
  • 都市と農村をつなぐコーディネート事業
  • 各種研修事業
  • 自転車の価値創造事業

■理念

地域資源を活用する事業を通じて、持続可能な農村づくりに貢献したい

■連絡先

三重県多気郡丹生1718-1
Tel:0598-49-4800
E-mail: niu-info@ma.mctv.ne.jp

地域資源バンクNIU

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