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起業物語 [aile vol.99]

自分が受け取った優しさが、次の世代に伝わっていく

星野 智生(ほしの のりたか)さん
一般社団法人愛知PFS協会
1972年愛知県生まれ。
アウトリーチで10代のひきこもり支援を続けながら、通信制高校との連携でサポート校「名古屋みらい高等学院」を設立。
若者向けの居場所スペースや児童発達支援/放課後等デイサービスの運営や、中高生向けの学習支援なども行う。

心を閉ざし自室に籠ってしまう子のもとに何年も通い、ドアの外から語りかけ続ける。一般社団法人愛知PFS協会の星野智生さんは、学校でも家庭でもどこにも居場所を見つけられなかった子どもたちに、今日もよりそい続ける。その丁寧な関わりぶりに、他の支援機関からも一目置かれる存在だが、ご本人はいつも朗らか。リラックスして穏やかな雰囲気が素敵な人だ。今回の「起業物語」ではその生い立ちから、仕事に就いたきっかけ、そして「起業の学校」の10期生として学んだ経験まで、星野さんのルーツに迫るお話をうかがった。

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――星野さんは、子どもの頃はどんな子だったんですか?
小学校低学年の頃は、授業中にじっとしていることはほとんどなかったですね。窓際で外見て体育やってると、そっちの方が楽しそうに見えて…。こっそり抜け出して、体育にまぜてもらおうと思ったら、当然、教室に引き戻されて。(笑)何度もそれを繰り返してたんで、4年生くらいの時に、教室からは出ちゃいけないんだ、と分かって。それからはもう、教室でぼーっとしてましたね。

授業はぼーっと聞いてるだけなんだけど、テストはほとんど100点。僕、小学校の頃は自分のこと天才だと思ってましたから。(笑)友達ともよく遊んでたし。でも、その時の友達がやんちゃな子ばっかりだったんで、親が心配して。地元では、不良仲間の影響を受けて良くないだろうということで、中学から私立に行きました。

――反抗するとか、悪いことをするみたいなところはなかった?
周りから見ればルールを逸脱しているように見えたかもしれないけれど、自分が好きなように動いているだけで。先生とか、他人に対しての反抗心は無かったです。

でも、中学に入ってから、母親に対する反抗心が強くなりました。中学受験もそうだけど、小学校までは親から言われたことは全部こなせちゃったんですよね。習い事は、習字・そろばん・エレクトーンと、ボーイスカウト。部活でサッカーもやってました。楽しかったし、それに対して疑問は持たなかった。

でも、年齢とともに親が求めるものがエスカレートしたんでしょうね。親としては同じように接していたんでしょうけど、要領が良くて素直な弟と比べられて、僕の方がきつく叱られたと感じたり。そういう積み重ねがだんだん反抗に変わっていった。おそらく事前に売り言葉に買い言葉みたいなやり取りがあったんだと思うんですが、僕の分の食事だけ用意されていないとか。そういうことが限界になって、家を飛び出しました。

――家出したということですか?
家出です。中学校2年生の終わりくらいの時ですね。最初は友達の家を転々として、その後は、居酒屋でバイトを始めました。その後は居酒屋で知り合った人がバーを出すので、その店に来ないかと誘われて働きました。

働きながら高校へ

――学校に行きながらバイトもして、ひとり暮らしをしていたんですか?
そうなんです。中学校も高校も、学校好きだったから毎日行ってた。(笑)でも、冷静に考えたら、学費を払わなければ在籍できないですよね。親はそのまま学費を払っていたんです。自分では全部自分一人の力で生活してるんだ!と思ってたんですけど。

僕、そのバーで働いてた三年間、洗い物をするくらいで、お客さんに出すお酒を作らせてもらったことは一度も無くて。毎日営業が終わってから、カクテルを作ってマスターに出すんですけど、毎回「ダメ」と言われる。だんだん腹が立ってきて、マスターが作るのと何が違うんだと。未成年だからお酒はダメなんですけど、味見程度に並べて飲むと、素人でも分かるくらい味が違う。同じ方法で作ってるのに。それがまた余計に腹立って。三年間ずっと、一口飲んでは捨てられる。

でも、家出している中、僕が道を踏み外さずに生活できたのは、間違いなくマスターのおかげです。僕に厳しく当たるんですが、お前のためを思ってやってるんだとかは、一切言ってくれなかった。ただ、何も言わないけど、影で支えてくれたことはたくさんあって。当時の僕の家賃もマスターが払ってくれてたんです。部活も、マスターがやれって言うからやってました。授業終わったらすぐバイトに行くって言ったんですけど「早く来られても迷惑だから、21時に来れればいい」と。でも、夕方から21時までは実はピークで、すごく忙しかったんです。

親やマスターがしてくれたことに対して、その時の自分は全く気付くことができなかった。社会とか世の中とか周りの大人とか、何にもしてくれてない、俺一人で頑張ってると思ってた。友達や先生にも、自分がそういう生活をしているとは、何があっても言いたくなかった。

今、この仕事をしていて、周りから「星野さんはこんなにやってあげてるのに、あの子は全然分かってないよ。」と言われることがあります。でも、苦しんでいる渦中で言ったところで、分からないのは仕方がない。僕がそうだったように、後で気づいて感謝の気持ちを持ってくれたのなら、今度は自分の周りにいる、困ってる人に手を差し伸べてほしい。「恩送り」というのでしょうか、僕らにではなく、周りにそれを返してあげて欲しいと伝えています。

その後、僕は高校を卒業して県外の大学に行くことになりました。進学もマスターが勧めたんですけどね。ただ、学費や生活費は自分で働いて稼げって。そうは言っても、入学金とかは出してくれた。(笑) 常連のお客さんだけを集めて、送別会をしてくれることになったんです。僕は主役だから座って飲み食いしてればいいのかなと思ってたら、マスターが「今日は星野君が皆のオーダーを作ります。」と。僕一人がカウンターの中で注文を受けて、カクテルも作って。その時初めて、お酒の強いマスターが酔っぱらった姿を見ましたね。

マスターは何のためにやってくれたんだろう…。本当に分からないんですけど。今、僕がマスターと同じ状況になったとしても、絶対に同じことはできない。支援をしていて、そこまでする?やり過ぎじゃないの?とよく言われます。でも、僕は自分がしてもらってきたことを考えたら、ごく表面的なことしかできてないって思っちゃうんです。僕にとってはマスターが理想であり、基準なんですよね、大人としての。

子どもたちとの出会い

――引きこもりの子の家に行ったりする仕事を始めたのは、いつからですか?
大学を卒業してから30代半ばまで、ドラッグストアで新店を立ち上げる仕事をしていました。休みもほとんどなかったし、一日の労働時間も18時間近く。お給料もかなりいただいていたんですが、体力的な限界も感じて辞めました。その後、薬の販売の資格取得の会社で講師をしました。その会社が学習塾も経営していたので、塾の仕事も頼まれたんです。

塾では子どもたちと面談をするんですが、ある女の子の体に、タバコを押し付けたような跡があることに気づいたんです。「痛くないの?」って聞いたら気まずそうにするので、何だろう?と。親御さんと会ってみようと、自宅を訪問しました。何回か訪問した時、義理の父親の虐待だと聞いて。お母さんもそれを誰にも言えずに苦しんでいたんです。それで、お父さんが帰ってくるまで待って、外で話をしたんですけど、逆上しますよね。でも当時は、本人に当たったらどうしようなんてことすら考えられなかったので、また来ますと言って、家に戻しちゃったんです。そうしたらやっぱりさらに酷いことになっちゃって。ホテルを取ってその子だけ避難させたんだけど、最終的には警察と児童相談所に介入してもらいました。初めて児相ってこういうことをしてくれるんだと知りましたね。

その時から、塾で面談するんじゃなくて、家に行くことにしたんです。面談室より色んな情報が手に入るし、本人の様子もよく分かる。家庭訪問を始めたら、塾には来ているけど、学校はほとんど行ってない生徒が何人かいることが分かりました。このまま高校行かなかったら、大学受験はどうするんだ?と思って調べてみたら、高卒認定(大検)という制度を知って。じゃあ無理して行く必要ないじゃん。学校行かなくても、高認受ければいいよって言ってたら、親から怒られて。(笑)高校を卒業しないと親は納得しないんだな、じゃあ自分たちで通信制の高校を作ろうと考えました。

新しい学校をつくる

通信制の高校は、昔働いてたドラッグストアの社長に相談して、私財から出資していただきました。おかげで生徒は60~70人くらい集まるようになりました。年間の授業料が一人70~80万くらいなので、経営も安定してきたんですが、今度はその授業料を払えない家庭の子たちが出てきた。最初は僕が時間外に対応してたんですけど、やっぱりちゃんと学べるようにしたい。そう考えて、利益は出ているからそういう子たち向けの仕組みを作ろうと提案したんです。ところが会社では、逆に授業料が払えても、学校にそぐわない子はいらないとか、人を選ぶようになっちゃった。それは違うだろうと。僕はもともと学校に馴染めない子のために通信制をスタートしたのだから、「いい子」ばかりを集めてやるのは納得できない。その学校は辞めて、逆にそこでははみ出してしまった子たちとやっていこうと思い「愛知PFS協会」を立ち上げました。

今でも普通の通信制高校の授業料が出せて、楽しく高校生活を送れそうな子に関しては、別の学校を紹介しています。僕たちは経済的に苦しい子や、他の学校などでは対応しきれないと断られた子たちを優先的に引き受けています。

――どんな子が、他では断られてしまうんですか?
少年院に行くような子や、障害や精神疾患があったりして、常にスタッフが見ていないといけない子とかですね。手間のかかる配慮は必要なんだけど、でも、それさえあれば普通に関われるんです。少年院行ってるからといって、すぐにキレて暴れるわけではないし。どの子も面と向かって話したら、全然普通なんですけどね。重度心身障害の子だけは、現状ではお引き受けすることができないんですけど、それ以外の10代の子に関してはすべて受け入れます。どんな状況であっても対応はできる。できなかったら他の機関と連携しながらでもできるから。どうしてもダメだったら、どこかできる支援機関を探すまでうちで預かります。

全てのサービスを無償にしたい

今は名古屋市から学習支援を受託したりしているんですけど、これを実績にして事業を拡大しようということではなくて「自分たちがやりたいと思っていたことに、予算がついた」だけなんです。学習支援がまさにそうで、中学生に対してもアプローチしたいけど、どうしようと思っていた時に公募があったんです。

受託の事業だと、本人からお金を貰わなくていい。それが一番の僕の望みです。できれば全てのサービスを無償化したい。特に学校とか学びの場に関しては、絶対に無償にしてほしい、それができる仕組みはないのかなって。僕が応募する理由は、今は対象者からお金を貰わざるを得ないけど、委託事業の仕組みがあれば貰わなくてもいいから。

僕、普段は世の中に向けてどうしたい、っていう感覚は無いんです。自分の目の前にいる人のことは考えられるんだけど。例えば被災地のこともニュースで見るだけだと、対岸の火事のように感じてしまう。でも、ニュースに出てきた子と実際に会って話をしようものなら、一生関わり続ける覚悟を持っちゃう。(笑)だから、自分が動けるうちはいいんですけど、直接会ってする支援ができなくなった時に、僕は何をしたらいいのかという不安があるんです。

でも、学習支援をやってみたら、子どもの後ろにいる家族や学校の先生が、僕の目の前には現れてないはずなのに、その人たちのことを考えられるようになってきた。学習支援を通じて色んな課題が見えてきて、市に提言したり、この動きが市全体に広がったらいいな、とかを考えられるようになってきた。自分にとっては不思議な感覚なんだけど、これからは目の前だけじゃなくて、もう少し広い範囲に目を向けられる自分になれるのかもしれないという期待感もありますね。

この感覚を得られたのは、起業の学校で事業の「何のために」とか「誰に向けて」を一つずつ明確にした経験があったからだと思うんです。僕がどうしても関わりたいと本気で思うのは、やっぱり10代なんですね。以前は30~40代の引きこもりの人の支援もしたんだけど、気持ちが乗らなかった。だけど誰も行ってくれないからやらなきゃ、という使命感みたいなのがあって。でも、起業の学校で「身の丈」ということ――自分が本当にやりたいこと、自分ができることを、ちゃんと考えてやらないと失礼だと気づいたんです。

自分の意志を確認するだけではなくて、理念をスタッフとも共有するためにも、僕は起業の学校で学んだ方法を使っています。10代なら全員受け入れる、と言ってるだけでは意味が分からないけれど、今までの僕に比べたら、より具体的に「何のために」や「誰に向けて」を相手に伝えることができるようになったと思います。

■取材・文/石黒好美(フリーライター)
■写真/河内裕子(写真工房ゆう)
会報誌aile99号(2017年6月号)掲載

一般社団法人愛知PFS協会
■事業内容
・通信制高等学校サポート校「名古屋みらい高等学院
・児童発達支援/放課後等デイサービス「アフタースクールPFS」
・不登校・ひきこもり支援
・アウトリーチ(訪問支援
・居場所スペース
・学習支援
・カウンセリング
・各種相談
・支援者研修

など
■理念
 環境によって未来が制限されることなく、それぞれ認め合い繋がっていける社会の実現
■連絡先
 〒460-0008 名古屋市中区栄1-26-8-5A
 TEL:052-228-0280
 HP:http://aichi-pfs.org/

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