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会報誌「aile」vol.92

会報aile92号(2015年9月号)

「親も子も主人公」 ~“わたし”らしく社会と関わることからはじまった子育て支援の取り組み~

丸山 政子さん
特定非営利活動法人子育て支援のNPOまめっこ 理事長

1973年、夫の転勤のため名古屋へ。誰も知らない土地で子育てすることの不安を経験する。
その後、生涯学習センターでの託児ボランティア、親子教室運営へのかかわりを経て、2000年特定非営利活動法人子育て支援のNPOまめっこを設立、理事長に就任。
2003年、名古屋市北区柳原商店街に「0,1,2,3才とおとなの広場遊モア」開設。
2015年4月より、名古屋市子ども・子育て支援センター・センター長。

少子化。日本社会の現状を表現する際に、この言葉が必ず使われるようになってから、もうどのくらい経つだろうか。合計特殊出生率が1995年に1.5を下回って以来、多少の増減はあるものの、1.3前後を推移。出生数も減少を続けており、社会保障の問題を含め、国のありようを大きく見直さなければならない時代が続いている。

こうした状況を背景に、地域における子育ても大きく変化してきた。子育てについて気軽に相談できる相手が身近にいない家庭も多く、特に乳幼児の育児期は孤立しがちだ。一方で、インターネット上には子育てに関する情報が溢れており、それらに振り回されてしまう人もいるという。働きながら子育てする女性も増えた。

「今のお母さんたちは、本当に大変だと思う。いくら情報があふれていても、それを活かすことができなかったら意味がないんです。少子化の中で、子育てをしていること自体が少数派でしょ。お母さんたちの“つながる力”の弱さも気になっています」。

そう語るのは丸山政子さん。NPO法人子育て支援のNPOまめっこ(以下まめっこ)の理事長である。託児ボランティアでの活動をきっかけに、名古屋で子育て支援の事業に携わって25年。その間、たくさんの親子の笑顔も涙も見守ってきた。

孤独な子育ての経験者として

丸山さんも、孤独な子育ての経験者だ。結婚と夫の転勤をきっかけに、群馬県から転居。それまで縁もゆかりもなかった名古屋での暮らしがはじまった。自身の母が、素敵な洋服を手づくりしてくれたり、手の込んだ料理をつくってくれたりと、「主婦として完璧だった」こともあり、「専業主婦には憧れていた」という。「だた、わたしは落ち着かない子どもだったので(笑)、せっかくの服を泥だらけにしてしまって叱られて自分はダメな子だと落ち込んだり。今思えば、もっと泥だらけになってもいい服でもよかったのに、とは思うけれど、当時、母は”完璧なお母さん”で、自分も結婚したら、そうするのが当たり前だと思っていました」。

だが、実際に子育てがはじまると、子どもの病気や成長についての不安が生まれる。「ひとつひとつは大きなことじゃないんです。ちょっと子どもの熱が出たとか、いつもと様子が違うとか。でも、実家は遠くてすぐに帰れる場所ではないし、夫は働き盛りで帰りも遅く、子育てのことは任せたと言われる。この子の育ちの全責任を自分が背負うのかと思って押しつぶされそうになって…。もっと気軽に子育てのことを相談できるところがあったらいいのにな、と漠然と思っていました」と振り返る。「子どもの服を縫ったりするのも一通りやりましたよ。でも、ほどほどやったら満足してしまって(笑)。子どもたちが成長して、少しずつ自分の時間もできてくる中で”なにかやりたい”という気持ちも生まれてきたんです」。

人とのつながりが支えになる実感

“なにかやりたい”、でも、何をどこからはじめていいのかわからない。丸山さんは地域の生涯学習センターなどに足しげく通い、様々な講座を受講した。その中で出会ったのが、女性学。「性別役割分担とか女性の家事労働の話を聞いて、あぁ、そういうことだったのか、と。わたしが感じている不安や戸惑いは、わたしだけの問題じゃなくて、社会の問題でもあったんだという発見は、とても大きなものでした」。とはいえ、専業主婦として何年も生きてきた。何か専門的な資格があるわけでもない。そんな自分になにができるんだろう。子どもたちは成長に伴って、自分たちの世界を広げていく。そんな中で自分は、ずっと家の中でこの先何年もテレビだけを社会との接点としていくのだろうか…。

いろいろと考える中で、生涯学習センターでのパッチワーク講座に参加した。何よりもよかったのは、人とのつながりができたことだという。仲間たちと作品展を開催したり、講師の資格まで取得した。「最終的に辿り着いたのは、“やっぱりわたしには向いてない”っていう結論だったんだけど(笑)。パッチワークそのものよりも、人を集めたり、仲間たちとわいわいやっていくことが楽しかったんだと思います」。

そうやって生涯学習センターに出入りしているうちに、センターの一人の職員から「今度託児ボランティアのグループをつくろうと思っている。手伝ってほしい」と声をかけられ、その活動にも参加することになった。

「わたし」として社会と関わる

託児ボランティアの活動をしながら、当時の子育てのあり方、特に母親中心の子育てのあり方に改めて疑問を持ったという丸山さん。「自分自身の子ども時代を振り返っても、子どもは母親だけではなく、地域のたくさんの人のかかわりの中で育つと感じていました」。子どものいじめや事件が報道されることが増え、その中には母親の責任を追及するものも少なくはなかった。もっとこの問題を考えたいと思い、今度は心理学やコミュニケーションを学ぶように。「それがとても面白くて。パッチワークもいいけれど、わたしは布じゃなくて人と人を組み合わせたり、つながりをつくったりする方が好きだ、そこで生まれる化学反応にわくわくする、と思ったんです」。

きっとそれまで眠っていた丸山さんの中の「妻でも母でもない“わたし”」という部分が存分に開花したのだろう。託児ボランティアのグループでありながら、託児だけにとどまらず、女性が学ぶための講座の企画や運営もはじめていた頃、親子教室を立ち上げていた女性たちとの出会いがあり、その運営にも関わることになった。

「“子育て支援”なんていう言葉もなかったような時代。2才以下のお子さんを持つお母さんたちが親子で参加できる教室を運営したんですが、参加者はすぐに集まるし、こんな講座を待っていた、と言ってくださるお母さんたちもたくさんいました。」起業支援ネットの前代表理事の関戸が講師を務める起業講座を受講したのもこの頃だ。

だが、ボランティアでの運営には限界があったのか、メンバーの脱退などにより存続の危機を迎える。この取り組みを求めている人がいる。できることならば「仕事」にしたい。でも、本当に自分にできるのか…。そんな迷いをふっきるきっかけになったのが、名古屋市の海外女性派遣団のメンバーとしてイタリア・フランスへ行き、フランスの「親子広場:緑の家」、その後カナダの「ファミリーリソースセンター」という海外の取り組みを視察したことだった。保育士等の専門職ではない人が地域の一員として実践している取り組みや、日本は育児期の女性に対する精神的なサポートがまだまだ遅れている現実を知った。「子育て支援はこれからの日本社会にとって絶対に必要だ」という確信が生まれ、2000年にNPO法人を立ち上げた。

ちいさな声と向き合い続ける

現在、まめっこでは、0,1,2,3才とおとなの広場「遊モア」、企業協働「家族の絆レストラン」、親と子の教室「モアファミ」、シングルの親の会「くれよん」など、子育て期の家族を支える様々な取り組みを進めている。その中でも、大きな転機となったのは、2003年に開設した常設型の子育て広場「遊モア」だという。それまで、荷物を衣装ケースに詰め込んで、各地を転々としながら親子教室を開催していた。「親子がいつでも来られる拠点となる場所がほしい」。そんな丸山さんの願いが、商店街の空き店舗対策の施策と出会い、改装費用の一部と初期の家賃の補助を受け、名古屋市北区の柳原商店街での拠点開設につながった。

今やまめっこの存在は商店街の中でも「名物」の一つとなっているが、最初からそうだったわけではないという。「商店街の方々も、はじめはNPO?子育て支援?遊んでいるだけじゃないか、商売としてやっていけるのか、という感じでした」と丸山さんは笑う。だが、まめっこができたことで、親子連れが商店街の通りを歩くことが増え、中には買い物をする人もいる。また、まめっこも商店街の取り組みに積極的に参加してきた。そんな中で商店主の方々の意識も変わってきたという。「結局は人と人だから、コミュニケーションを重ねていけば、何かが変わっていく。社会が変わるってそういうことの積み重ねではないかと思います」。

自分には専門性がないと思い悩んだ日々もあった。けれど、目の前にいる親子と自分自身の経験を重ねあわせたとき、なすべきことが見えてきた。「これは必要だ」と直感したときの丸山さんは、それが形になるまで決して諦めない。その愚直さこそが丸山さんの強さだ。そして、いつしか20年以上の時が経った。

「難しいことじゃないの。ただ、ちょっとした支えが社会にあることが大事」。丸山さんの大きくてあたたかな笑顔が、今日もたくさんの親子を支え続けている。

(取材・文/久野美奈子 写真/河内裕子(写真工房ゆう))

《事業概要》

特定非営利活動法人子育て支援のNPOまめっこ

■事業内容

0,1,2,3才とおとなの広場「遊モア」
企業協働「家族の絆レストラン」
親と子の教室「モアファミ」
シングルの親の会「くれよん」
子育て支援者養成の場&エンパワーメントの場「まめサポ」「ママセミナー」
児童館・学区民生・児童委員協働「あおぞら広場」他

■理念

「親も子も主人公」親も子も主人公となり、他の人との違いを認めることができ、自分の子育てに自信が持てるような場を作ることを通して、地域がエンパワーメントされ、ともに安心した住みやすい街をつくる。

■連絡先 

名古屋市北区柳原4-2-3
TEL&FAX:052‐915-5550
電話対応可能時間:月~土(9:15~15:15)
HP:http://mamekko.org/

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