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会報誌「aile」vol.85

会報aile85号(2012年5月号)

(番外編)SR社会を目指して ~みんながつながり、支え合うために~

関戸 美恵子さん
一般社団法人SR連携プラットフォーム 代表理事

高校教員、めいきん生協全体理事を経て、1992年に起業支援事務所ワーカーズ・エクラ、1998年に起業支援ネットを設立。
コミュニティビジネスを中心とした起業支援事業に携わる。
2011年7月起業支援ネット理事を退任し、同年6月に一般社団法人SR連携プラットフォーム設立、代表理事に就任。
「起業の学校」校長。

森 建輔さん
一般社団法人SR連携プラットフォーム 専務理事

大学卒業後、信用金庫に勤務し地域の渉外担当に従事するも、その働き方に疑問を感じ、起業の学校3期に入学する。
卒業後、次のステップの一環として起業支援ネットスタッフに仲間入りし、東海・北陸コミュニティビジネス推進協議会の業務に従事。
社)SR連携プラットフォームの設立に際して起業支援ネットを退職。
新法人の専務理事に就任。

一般社団法人SR連携プラットフォーム(以下、SRP)。起業支援ネットファウンダーの関戸美恵子が呼びかけ人となって2011年6月に立ち上げた法人だ。同じく起業支援ネットのスタッフだった森建輔が事務局を担当する。

2010年度まで中部経済産業局委託事業として起業支援ネットが事務局を担い、2人が中心となって進めていた事業「東海・北陸コミュニティビジネス推進協議会」の後継事業という位置づけだが、中身は「進化」している。コミュニティビジネス推進の枠を超えてSRPが目指しているのは“100年先の未来を見据えて、すべての組織、すべての個人が当事者性を発揮して持続可能な社会発展のために貢献する「SR社会」”だ。今、取り組んでいるのは、企業・経済団体に向けたISO26000(国際標準化機構が作成した社会的責任についての規格)に関するセミナーや、コミュニティビジネス・NPOなどが入居する協働・連携オフィス「地域資源長屋なかむら」の開設・運営である。

「SR?」「連携?」「プラットフォーム?」「何するところなの?」など、正直イメージが湧きづらい。「実は私たちも手探り中なの(笑)」。軽やかな言葉の奥にある深い想いに迫ってみた。

「SR」ってなんだろう?

法人名に掲げた「SR(社会的責任)」。企業のCSR(企業の社会的責任)から「C:Corporate」をとったとも言える。社会的責任は個人にも、行政やNPOも含めたあらゆる事業体にもあるという考え方だ。

「社会の仕組み自体が、責任を取らせない構造、例えば社会のリーダー層とそうじゃない人をわけて、そうじゃない人にはとにかく観客席に座ってもらおうというような『社会的しきたり』があったと思うの」

と語る関戸さん。長年起業を支援してきた中で、問題を他人のせいにする発想や姿勢では起業はできないと痛感してきた。一方で、社会の側が責任を取らせてくれない構造も感じていた。環境、人口減少、災害など、私たちが今抱えている困難を乗り越えるためには、それぞれが当事者性をちゃんと獲得する必要がある。SRは企業だけが果たすものでも、コミュニティビジネス・ソーシャルビジネス(以下、CB・SB)にしてもらうものでもない。

グローバルに広がり、複雑に絡み合った現代社会の中では、自分の立ち居振る舞いが否応なしに社会のいろんなところに影響を与えている。その影響を受けたり与えたりという「影響の及ぶ範囲での応分の責任」を自覚した上で、きちんとした「振る舞い」をしようというのがSRだ。

「ただ、責任を押し付けるような文脈の中での社会的責任ではありません。例えば、寝たきりの方にも、その人なりの影響の及ぶ範囲があって、誰かを励ましたり、誰かに助けられたりしている。当然その人も社会的責任を果たしている。逆に言えば、そういう困難を抱えた人がちゃんと社会的責任を果たせるような、様々なサポートがそれぞれの社会的責任においてなされなくてはならない。」

SRは人を縛るものではなくて、人の可能性をひらくもの。誰かが、次々と重なる困難に倒れても、すっと手を差し伸べられる社会をつくる。起死回生の可能性を閉ざしてしまわない社会がSRPの目指す社会の姿だ。

メインストリームを変えていく

前身となる東海・北陸コミュニティビジネス推進協議会ではCB・SBに縛られる違和感に悩んでいたという。「CB・SBという言葉を使わずとも、SRに基づいた経営をしている企業がいくつもあった。それなのに、あえて言葉でくくる必要はないんじゃないかって、もやもやしていました」と森さん。

CB・SBだけでなく、すべての企業が社会性と事業性の統合にチャレンジしていかなくてはならない時代になってきている。事業の中軸にSRを置き、誰からどう買うか、どんなふうに流通させるか、などの事業活動の全てを通して、社会に対する影響、未来に対する影響に想像力を働かせて、応分の責任をとろうという態度が必要だ。

「経済発展の副作用が出るのは仕方がないという前提に立って、それを緩和するためにCB・SBやNPOに頑張ってもらいたいという、社会全体の無責任な構図。それがあるとするならば、そこに乗りたくはない。逆の言い方をすれば、CBやSBも、もうオルタナティブとして存在するだけでは許されなくなってきている」。社会のメインストリームを変えていく試みをしていかなくてはならないのだ。

連携からのアプローチ

多くの人たちが社会の危機に気付き、既に動き始めている。その中でのSRPの役割は「つなぎ目」だ。

「SRPは中間支援でもなければ、具体的なコンサルタントでもない。調査・研究機関でもないし、かといって単なるネットワークでもありません。関係づくりを促進していくような材料や場を提供していくイメージです」

各自がバラバラに取り組んでいるだけでは課題解決が相当に難しいという現状がある。どこかでつながり合うことが本質的な問題解決には必要だろう。だから、連携をアプローチの軸に据えた。既にある支援機関や現場で頑張っている人たちも含めて、すべての事業体が主体的に行動できるような基盤を用意する。連携と言ってもコーディネートやマッチングをするわけではなく、ネットワークの下支えをしていくイメージ。だからプラットフォーム(基盤)と名付けたと。

「通常はお互いの利害とか、価値観が一致するっていうところで連携するわけです。だけどもう、社会が今までの連携では立ちゆかないと悲鳴をあげている」。関戸さんの言葉に森さんがうなずく。「いいことがあるから連携するっていうは、本当の連携じゃない」。社会の持続可能性を考えれば、目先の利害を超えてでも連携する意味が見えるはずだ。これからは地域の中の多様な主体が地域の課題や未来を考える同じテーブルにつくこと、つまり、マルチステークスホルダーという意識が重要になる。多様な主体が地域の中にあることで、意識しようがしまいが生まれるリスクや可能性に目を向けていく。そんな取り組みに貢献したいと森さんも語る。

「振る舞い」を変えていく

とはいえ何か1つの理論や、考え方でまとめあげていくつもりはない。価値観を変えていくのも大切だが、そうするとどうしても偏りが起こってしまうからだ。重層的にからみ合っている社会をわかりやすい号令で引っ張っていくイメージでもない。多様性を担保できなければSR社会とは言えない。

「極端な言い方をすれば、どんどん儲けることが企業の使命だと思っていてもいいんですよ。価値観のところで戦う必要は全くない。ただ振る舞い方をお互いに少しずつ変えていけば、持続可能性は担保できる」

SRを意識しながら、振る舞いの変容を促す。それはISO26000とも通じるところだ。ISO26000は理念の変更を求めてはいない。情報がちゃんと開示されているか、労働慣行がきちんとしているか。それらの実態や行動を重視している。「資本主義社会の中で収益を最大化したいという思考を否定する所からスタートしようとすると、事は一歩も進まない。でも、その振る舞いはどうなのか?と投げかけ、考えることは、出来るのです」。具体的な行動を変えないと今の困難は乗り越えられないことには気付いて欲しい。だが、それがどんな価値観に基づくべきかは問わない。SRPが問いかけるのは「振る舞い」そのもの、なのだ。

人と人、事業体と事業体の間にある関係に着目して、社会を変えていく。それはとても新しい取り組みであると同時に、まだ見えないものへのチャレンジでもある。暗中模索。想いを形にしていくのはこれからだ。

見えない不安を2人で楽しむ

100年先を見据えたSR社会。そんな目に見えないモノを追いかけていくのに不安はないのだろうか?

「無理に『大丈夫!』って言うよりは、『どうするよ~?』って言いながらやってく方が精神衛生にはいい(笑)不安をなくそうと思うんじゃなくて、不安と共存できる。なんかそういう境地だよね。森さんはそこに巻き込まれちゃったのかもしれないけど」という関戸さんに対して「巻き込まれることをよしとしました(笑)」と森さんが受ける。わかりにくい事業と言ってはいるものの、2人には自信が感じられる。「だって『行方も知れぬSRの船』(笑)に一緒に乗って、漕いで行こうと思ってくださる強力な理事メンバーや多くの人に支えられているから」。そしてもうひとつ、2人を支えているのは「地域資源長屋なかむら」の手触りだ。

「『地域資源長屋なかむら』の開設は、別に金銭的な後ろ盾があったわけでもないし、むしろ逆にリスクを背負ったのに、なにか安心感をもらってます」と森さん。そこには入居する団体と共に作り上げた現実の場があって、連携や合意形成の苦労もある。その足場があるから、見えないものを追いかけていくことができる。

関戸さんが起業支援ネットを立ち上げたときも、起業支援なんて全く見えていなかった。「起業支援も、今になってやっと見えかけてきたかなって。社会の変化と共にね。だから、実態が追いついてくればSRのイメージもわかりやすくなってくる。あと10年、20年すれば相当はっきり見えるんじゃないかな」。実態が追いついたときに私は生きていないと思うんだけど、とさらっと言ってしまえるところに関戸さんの確信を感じる。後を託される格好の森さんも手探りの状況を自分なりに納得して、楽しんでいる様子だ。

「まだ関戸さんの生み出す概念を追いかけている状況ですが、SRは日々深まっていく感じがあります。SRPの事業は傍から見ればわかりにくいかもしれないけど、きっとこの地域にとって先進的な取り組みにならざるを得ない。あとあと考えれば、あのときにSRPがはじめたんだね、ってこともあるのかも。ちょっとリップサービスし過ぎかな(笑)でも間違っちゃいないと思う」

創立メンバーと共に不安や苦労を分かち合いながら進めていく事業。これからどんな形になっていくのかが、楽しみだ。

(取材/川原利香・木村善則 文/木村善則 写真/河内裕子)

《事業概要》

一般社団法人SR連携プラットフォーム

■事業内容

  • SRに関する情報の整理・公開
  • 事業者同士や、地域との連携促進の場づくり
  • SRを意識した経営に取り組むための連携促進
  • 新たな資金循環の流れをつくる 

■事業理念

この地域の100年先の未来を見据えて、すべての組織・全ての個人が当事者性を発揮して持続可能な社会発展のために貢献する「SR社会」づくりを目指す。

■連絡先

〒453-0041 名古屋市中村区本陣通5丁目6番地1 地域資源長屋なかむら1階
電話:052-414-5160
FAX:052-414-5170
e-mail:office@sr-com.org

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