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会報誌「aile」vol.74

会報aile74号(2010年7月号)

誰もが社会とつながりながら 自分らしく生きられる場を丁寧に紡ぎ続ける



橋本 思織さん(上)
NPO法人ひょうたんカフェ 代表理事
 会社勤めを経て、社会福祉士の資格を取得。社会福祉法人あさみどりの会の運営する知的障がい者自立援助施設べにしだの家勤務。平成18年NPO法人ひょうたんカフェ設立、同代表理事に就任。
井上 愛さん(下)
NPO法人ひょうたんカフェ 副代表理事
 大学で人間関係を学び、その後保育士資格取得。障がい児通園施設でのボランティアなどを経て、社会福祉法人あさみどりの会の運営する知的障がい者自立援助施設べにしだの家勤務。平成18年NPO法人ひょうたんカフェ設立、同副代表理事に就任。
事業概要


特定非営利活動法人ひょうたんカフェ
<ひょうたんカフェ・デイサービスおりのあな>
TEL/FAX:052-482-6130
名古屋市中村区中村町8丁目45番地
<ひょうたんカフェ豆腐店>
TEL/FAX:052-7008473
名古屋市中村区中村町8丁目41番地
<ヘルパーセンターらいぶ☆YOU>
TEL/FAX:052-710-2529
名古屋市中村区中村町8丁目41番地
E-MAIL:hyoutan-cafe@qc.commufa.jp
URL:http://www.wa.commufa.jp/~hyoutan/
■事業理念
障害のある方々の力を社会に活かし、社会に発信する
■事業内容
・障がい福祉サービス事業
 (デイサービスおりのあな・ヘルパーセンターらいぶ☆YOU)
・さをり事業(アトリエおりのあな)
・とうふ事業(ひょうたんカフェ豆腐店)
・地域福祉事業(ひょうたんカフェのコミュニティ)
誰もが社会とつながりながら 自分らしく生きられる場を丁寧に紡ぎ続ける

名古屋市中村区。豊国神社の大鳥居をくぐって一本筋を入ったところに、NPO法人ひょうたんカフェという手作りの看板のかかった古民家がある。「ひょうたんカフェ」という屋号につられてか、“ここは喫茶店ですか?”と通りすがりの方に聞かれることもあるそうだが、ここは障がいを持った方々が地域の中で自分らしく生きていくことをサポートする事業所だ。

NPO法人ひょうたんカフェは平成18年に設立され、今年で5年目を迎える。“ひょうたん”は、豊国神社に祭られている太閤秀吉の旗印であり、中村区のシンボルマーク。地域に根付いた場所になるように、そして“カフェ”のように人々が穏やかで優しい気持ちになれる場所になるようにという願いが込められた名前だ。

障がいを持った方がさをり織り等の創作的活動を行うデイサービス事業からスタートし、働く場としての豆腐の製造・販売事業、ヘルパー派遣の事業など少しずつ事業を広げてきた。立ち上げ当初数名だったデイサービスの利用者も少しずつ増え、今は毎日10名を超えるまでになっている。

「事業を大きくしようと思ってやってきたというよりは、利用者さんのニーズに応えているうちに、いつの間にか広がってきてしまったというのが率直なところです」

と語るのは、代表理事の橋本思織さんと副代表の井上愛さん。ひょうたんカフェが生まれた歴史は、この二人が15年前に出会ったところまでさかのぼる。

タイプが違うからこそ支え合える

橋本さんは、会社員を経て、専門学校に通って社会福祉士の資格を取得した。もともとは福祉の中でも事務系の職場に興味を持っていた橋本さんだったが、

「資格取得のカリキュラムの中に4週間の実習があって、わたしは自閉症の方たちの施設に行ったんです。ハードな職場ではあったのですが、それを楽しんでいる自分を発見して。福祉の現場で働くのもアリかなと思うようになりました」。

井上さんも、大学時代、障がい児の通園施設に実習に行ったことが福祉の道に進むきっかけに。大学卒業後は、その施設でのボランティアをしながら、同時に夜学で保育士の資格も取得した。

「その施設との関わりの中でいろんな人に出会いました。自分自身も楽しみながら、結果として障がいを持った方やその家族を支えるという雰囲気がそこにはあって、それがしっくりきたんですよね」。

そんな二人が知的障がいを持った方の自立支援施設の職員の同僚として出会い、その後、8年間同じ職場で働いた。その間に、二人とも出産を経験。育児休暇はとらず、産後8週間の休みのみで復職した。保育園が決まるまでは、子どもを職場に連れて行ってもいたという。

「上司も、障がいを持った方と子どもが同じ場所にいることはいいことだと考えていて、自然にそういうことができる風土があったんですよね」

と橋本さんが言えば、

「うちの子は、未だに町なかで施設勤務時代の同僚や利用者さんを見つけて、あ、○○さんだ!って反応します」

と井上さん。
そこには、ごく自然に生活と仕事を重ね合わせてきた二人の姿がある。

「障がいを持った方の支援と子育てって共通するところも多くて。だから慌ただしい毎日ではあったけれどひとつの線でつながっている感じでした」。

井上さんにとっての橋本さんの第一印象は

「よくしゃべる人だなぁと思った(笑)。施設の中でもいつの間にかリーダー役になっていくような感じでしたね」。

橋本さんから見た井上さんの第一印象は

「わがまま(笑)!集団行動が嫌いで、いつも一歩離れたところにいるような感じ」

なのだとか。自然にみんなをまとめていく橋本さんと、同じ物事でもまた違った角度から見ることのできる井上さん。二人を見ていると、絶妙のコンビネーションでありながらも、一人ひとりが自分の足で立っていることが感じられる。

「同じ職場で働いていた8年の間にやっぱり体にしみ込んだものがあるのでしょうね。価値観とか哲学のようなものかな。だから、お互い好き勝手をやっているようでも、根っこのところはなにか安心感があるんですよね」

とその点は口をそろえた。

さをり織りとの出会い

そんなある日、井上さんが“さをり織り”と出会う。さをり織りとは、“自分の持って生まれた感性を最大限に引き出す”事を主眼に置いた画期的な手織りと言われている。常識や既成概念にとらわれず、自由奔放に、好き好きに織ることから、織った人の感性が表現された世界にたった一つの作品が出来上がる。

「はじめて見たときに、言葉にならない衝撃を受けたんですよね。これ、なに?これ、すごい!って。話を聞いたら、それは障がいを持った方の作品だった。さをりと出会ったことで、障がいを持った方の新しい姿を発見したんです。みんな、それぞれに内面にこんな素晴らしい世界を持っているんだって気づいた。それは新しい支援観にもつながっていきました」。

井上さんは、早速職場にもさをり織りを導入。橋本さんもそれに協力した。さをりを見つけた井上さん、そしてその価値を共有し、実践に協力した橋本さん。思えば、この頃から、現在のひょうたんカフェの原型が二人の潜在意識の中に芽生えていたのかも知れない。

その後、施設を退職。二人でさをり織りを軸にした事業を立ち上げようとしていた矢先、橋本さんの夫が東京に転勤することになってしまった。が、二人とも立ち止まることはなかった。井上さんは起業支援ネットが運営する社会福祉協議会の講座に出るなどしながら起業準備を進め、まずは、さをり織りの工房兼ショップをオープンさせた。一方、橋本さんも東京でのネットワークづくりを少しずつ進めていった。電話での相談や情報交換などは密に行いながらも、今自分ができること、すべきことをする。そんな時間が3年ほど続いた後、橋本さんが名古屋に戻ってくることがきまったのをきっかけに、本格的に法人設立と事業化を検討。NPO法人ひょうたんカフェの設立へといたった。

地域での実践へ、そしてこれから

現在のひょうたんカフェの拠点は二つ。ひとつは、古民家を改装した空間で、障がいを持った方がさをり織りなどの創作活動を思いのままに楽しむ場である「おりのあな」。こちらは主に井上さんが切り盛りしている。織り機や色とりどりの糸がおかれ、アートな雰囲気を醸し出しながら、なぜかほっとくつろぐことのできる空間だ。そこに飾られている作品の数々は、それぞれが個性的でまさに世界にひとつの作品。あたたかくて懐かしい、そんな感覚が呼び起こされる。障がいを持った方だけでなく、地域の方も織りを楽しむことができ、自然と交流が生まれる場にもなっている。

もうひとつは、障がいを持った方が豆腐の製造と販売に取り組む「ひょうたんカフェ豆腐店」。障がいを持った方々が働く場所として、また地域との接点として、販売からはじめ、現在は製造も行っている。民家のガレージを改装したというその店舗は、小さいながらも清潔感にあふれ、遠目にはおしゃれなカフェのようにも見える。

ちょうど取材時は中村区の新大門商店街での出張販売から大きなワゴン車が戻ってきたところ。スタッフの方とともに、障がいをもった方も荷物の積み下ろしをし、商品を棚に戻していく。ひとつひとつ丁寧に行われるその作業は、ひょうたんカフェ豆腐店の志を象徴しているようにも見えた。手作りの豆腐は地域での評判も高く、リピーターも少しずつ増えつつある。

着実に地域に広がっていく一方で、新たな課題も生まれてきた。雇用するスタッフ・ヘルパーの数も増え、労務などの管理業務が大幅に増えた。「組織としての基盤を整えることと事業性を高めていくことがこれからの課題。事業性とひょうたんカフェらしさをどう重ね合わせていくかはいつも悩んでいます」と橋本さん。専門家の力も借りながら、組織運営の次のステージへと向かっている。

飾らず気負わず楽しみながら

法人を立ち上げてから4年。毎日が本当に面白いと語るお二人。子育てもまだまだ真っ最中であり、午後6時が二人にとってのリミットタイムだ。利用者を見送り、残務をこなした後、学童保育へとダッシュで駆けだす日々は、今も続いている。

「でも不思議とつらいとか、もう仕事に行きたくないとは思わないですね。人からは、ちゃんと自分の時間を持たないと倒れるよって言われることもあるけど、全部が自分の時間だと思ってます」

と言う井上さんに、「そうだね」とうなずく橋本さん。そこに迷いはない。

個性もタイプも違う二人。しかし、共通するのは未来を見るまっすぐなまなざしと、いいも悪いもひっくるめて多様性を引き受けようとする覚悟。そして、飾らず気負わずの中に一本通ったぶれない軸。それがあるからこそ、色とりどりの「その人らしい豊かな日常」を紡ぎ続けることができるのだろう。

ひょうたんカフェの実践は、わたしたちに懐かしくて新しい大切なものを確かに伝え続けている。

取材・文/久野美奈子 写真/木村善則

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