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会報誌「aile」vol.68

会報aile68号(2009年7月号)

コンピューターと人の触媒になることを目指して



大橋 猛さん
ショクバイ.com代表

大学卒業後、ITコンサルティング会社に就職。その後、大学院にてAI(人工知能)の研究を行う。大学院在籍中に結婚。
2001年よりITベンチャー企業において取締役。
2005年、個人事業としてsolis art設立。また、起業の学校1期生として入学。
2007年度「フレームを活用したスクレイピングによるマシュアップ支援ツール」にてIPA未踏創造事業採択。
2009年より、ショクバイ.com代表

事業概要


ショクバイ.com
E-Mail:ohashi@shockby.com
URL:http://www.shockby.com
■事業理念
人とコンピューターの触媒になるのを目指して
■事業内容
Google Appsの導入コンサルティングとサポート、Lotus Notesアプリケーション開発・システム管理、Webスクレイピングを使った、Web関連のアプリケーション開発を始めとするIT導入支援・開発支援全般
人とコンピューターの触媒になるのを目指し

この15年でわたしたちの暮らしや生活のスタイルは大きく変わった。その中で、大きな役割を果たしてきたのが、コンピューターの存在であることは間違いない。が、よく考えてみると、コンピューターについて、私たちはどれほどのことを知っているのだろうか。 日常的にパソコンの操作をしていても、その操作がどんな仕組みで可能になっているのかについてはわからない。コンピューターの世界は大変なスピードで進化していて、日々新しい便利なソフトやシステムが生まれているにもかかわらず、それを活かすには、相当の情報と知恵が必要だ。大きな企業であれば、それを専門に仕事とする部署を設置することも可能であるが、小さな会社や個人事業主はそういうわけにはいかない。個人の能力がコンピューターの使い方を左右し、業務の効率や売上にも影響が出てしまうのが現実だ。

そんな中で、「コンピューターと人の触媒になることを目指して」いるのが、大橋猛さん。2009年より、ITの導入支援・開発支援を中心に、ITに関する困りごと全般に対応する「ショクバイ.com」の代表として活動を開始した。

幼い頃は科学者になりたかったという大橋さん。

「世の中にはわからないことがたくさんある。そのうち一つでも自分で解明できたらいいな、と思っていました」。

未知なるものに対する好奇心は人一倍強く、興味をもったことを深めていくことが好きだったという。

技術者だった父親の影響で、まだ世間には普及していなかった時代にコンピューターと接したとき、「これは何でもできる魔法の箱だ!」と感じたという。「当時、高校生でしたが、本当にわくわくしました」。

大学では理学部にて数学を専攻。

「ただ、高校時代にコンピューターにはまってしまったので、大学でも純粋な数学というよりはコンピューターを触っていることのほうが多かったですね(笑)」。

卒業後は、ITコンサルティング会社へ就職。その会社は独立志向が強い社員が多く、たくさんの刺激を受けたという。

「自分自身ももともと自分で何かをやりたい、という将来像をもっていたので、学べることは多かったと思います。ただ、自分自身の技術力の未熟さも感じたので、一旦会社を休職して大学院に入りなおしました」。

大学院では、人工知能の研究に従事。また、世界各国を長期にわたって放浪する経験もした。その旅先で運命の出会いがあり、フィリピン人の女性と大学院在籍中に結婚。休職していた会社に復帰することは断念し、地元名古屋でIT関連企業に就職をすることとなった。

2001年からは、知人が設立したITベンチャー企業にて取締役に就任。経営にも参画することとなった。ただ、勤務地は東京。地元愛知に家族を残し、週4日は東京で暮らし、週末のみ戻ってくるという生活を続けた。仕事は常に24時間体制でハードな日々。週末に家に戻れば、幼い子どもを抱えた妻が待っている。幼稚園からもらってくるお便りを翻訳して妻に伝えることも大橋さんの役目だった。

「ここでの経験は今も自分の財産だと思います。やるだけのことはやったという充実感はありました」。

ただ、4年が経ち、社長との方向性に相違が生じたこと、家族と離れて暮らす毎日に限界が生じたこと、その二つが重なって退職を決意。名古屋に戻り、自ら個人事業として「solis art」を立ち上げた。

そんな中、たまたま新聞で起業の学校1期生の募集を知り、無料公開講座に参加。何か自分自身の事業にとってもプラスになればと入学を決めた。

「他の方は身近なところにお客さんのいる、生活支援型サービスでの起業を考えている方が多かったですね。技術力を活かしてシーズ型でいこうと考えている自分は異色な存在のような気もしましたが(笑)、学べることはあるとおもって」。

大橋さん自身も海外協力の分野には関心があったし、友人が社会起業家の支援をしていたこともあり、社会性の高い事業に対する親近感はあったという。

起業の学校では、仲間達と一緒に学び、ワークに取り組んだ。そこで出会った仲間達とは、現在も交流が続いている。

「業種とか業界とかを越えた仲間ができたことはすごくよかったと思います」。

大橋さんは、自らの技術力を高め、みながあっと驚くような開発を行うことで、社会に役立つ、というビジョンを持っていた。

「ただ、そう思って取り組んでも、開発が成功する確率は100分の1あるかないか。一人で取り組んでいるだけだと、どうしても先が見えない。技術力をそのまま事業に結びつけることは難しいと痛感しました」。

「solis art」として事業に取り組んで3年。事業を継続していくために必要な気力・体力・資金が尽きかけていると感じた大橋さんは、一旦事業を休止することにした。

「一人で開発に取り組んで、自己満足に終わっていてはいけない。事業を続けていくためには、人の話に本気で耳を傾け、相手の困りごとに応えていくことが大切なのだと気づきました。それまでも頭では分かっていたつもりでしたが、身体で納得したのは、このときだったかもしれません」。

もともと大橋さんは、人と競争するのが苦手なタイプだという。

「子どもの頃からそうでした。例えばスポーツで勝っても負けても割り切れない思いが残って辛くなってしまうんです。体を動かすことは嫌いではなかったのですが、勝ち負けがつく、ということに対する違和感はずっと感じていました」。

だからこそ、人と競争しないですむ世界を求め続けてきたのだろう。その方法のひとつが、大橋さんにとっては、技術力を高め、世界でたったひとつのものを提供する、という事業のスタイルだったのかもしれない。

が、しかし、それはたった一人で誰の力も借りずにやっていく、ということではなかった。その「技術」は誰かの役に立って始めて、事業における「商品・サービス」となる。人とつながり、その声に耳を傾け、自らの技術が活かせる場所を探すこと。それが大橋さんの次なるテーマとなった。

そして2009年に入り、大橋さんは「ショクバイ.com」と事業名を改め、新たな起業の旅に出た。そこでのテーマは、ITの技術をより広く活用できる環境を整備することだ。

「ITの技術は日々進歩していて、例えば事業を行う上での情報管理についても、やり方はたくさんあります。でも、それを導入するときに自分達に一番あった方法を見つけることが大切で、ただ他のところでやっているから…ということで真似をするだけでは、もったいないと思います」。

大橋さんの目には、まだまだIT活用の空白地帯になっている多くの場面が映る。

「例えば起業の学校の生徒さん、COMBi本陣の入居者さんなど、志は高くてもシステムが追いついていない事業所は数多くあります。勿論、中小企業さんや大企業でも、思い込みの罠というのは必ずあると思うのです」。

そんな事業所に二人三脚で伴走しつつ、今後、ITを活用した事業戦略の立案などにも関わっていけたら…というのが大橋さんの新たな夢である。

「現在も暗中模索の真っ只中です」と大橋さんは言う。本当にこれでやっていけるのかという自問自答は今も続いている。

もしかしたら、この模索しつづけることのできる力こそ、大橋さんの強みなのかもしれない。この時代、大橋さんの技術力があれば、何らかの形で食べていくことはさほど難しいことではないだろう。しかし、その道を安易に選ぶことはしなかった。「選ばなかった」「選べなかった」、どちらも大橋さんにとって真実なのだ。自分が自分らしく生きていきながら、社会との接点をたえず探し、進んでいく大橋さんの姿は、デジタルでクールなITのイメージとは真逆に見える。そのギャップにこそ、大橋さんの真骨頂が潜んでいるのだろう。

大橋さんは、広い世界との窓口として、この先もコンピューターがとてつもない可能性を持っていると確信するからこそ、その「可能性」を手触りのあるあたたかなやりとりを通して、一人でも多くの人に届けたいと考えている。

空を羽ばたく鳥は、正面からの風を受ける。そして、その風の力さえも使って、更に高く大空へと舞い上がる。大橋さんは今、再び羽ばたきはじめた。その先の空からは、どんな景色が見えるだろうか。

取材・文/久野美奈子 写真/河内裕子(写真工房ゆう)

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